「サングラスのおじちゃん...」 横山ゆかりちゃん失踪事件を未解決にしてはいけない!(1)

2018年05月10日 サングラスの男 新潟 横山ゆかりちゃん失踪事件 群馬

  • LINEで送る
  • ブックマークする
  • シェアする

title.jpg


 1996年のこの日はちょうど七夕で日曜だった。群馬県大泉町に住む横山さん一家は、すぐ隣町の太田市高林東町にあるパチンコ店「パチトピア」に出かけた。たまたま行きつけのパチンコ店から「七夕感謝デー」の案内と葉書がとどいていたのを見たからだ。

001.jpg現場となったパチンコ店(現在は店名が違う)


 横山さんの家は太田市との境界のすぐそばにあった。だから、横山さんの家から「パチトピア」までは、直線距離で1.5キロメートル程度しか離れていない。徒歩でも20分程度で行ける距離なのだが、横山さん一家は車を利用した。その程度の距離なら車を利用するのが、このあたりでは普通のことなのだ。

 横山さん一家が「パチトピア」に到着したのは、午前10時半頃。開店して間もない時間だった。一家は父親、母親、そして4歳のゆかりちゃんと、生まれてまだ7カ月しかたっていない次女の4人だった。次女は母親の背中に背負われていたという。

 この日のゆかりちゃんは、女の子らしくお洒落な洋服を着て、ご機嫌だった。ピンクのノースリーブのワンピースに白いレースのついた半そでのカーディガン。髪の毛は肩まで伸ばしていて、ピンクのリボンで丁寧に結んであった。

 パンチンコ店の「パチトピア」は国道354号線に面していた。北関東地域を横断するこの道路は、工業用、商業用の車両の多く走る、交通量のとても多い道路だった。

002.jpg自宅からパチンコ店に行く道


 建物の裏側には3か所の駐車場があり、100台以上の自動車を駐車できるスペースがあった。横山さん一家は、景品カウンターの後ろにある入り口から中に入った。景品コーナーの陳列棚を眺めたり、出入り口近くに備えつけてある長椅子に腰かけて休んだりもしていたという。

 正午ごろ、母親は店内で弁当を買って、子供ふたりを連れて外に出た。駐車場で昼食タイムとなったのだが、ゆかりちゃんはしばらく両親の間を行ったり来たりしていたが、そのうちお腹がすいたらしく、母親の元にやってきて「またご飯が食べたい」とせがんだ。
 母親は出入り口近くにある長椅子のベンチにゆかりちゃんを座らせ、お弁当をも持たせた。ゆかりちゃんの座ったその場所はパチンコ店の北西の角にある休憩コーナーだった。

 それからしばらくして、午後1時40分を過ぎたころのことだろうか、ゆかりちゃんがふいに母親の元へやってきて、こう言った。

「......の、おじちゃんが......」

 しかし、母親ははっきりとゆかりちゃんの言葉を聞き取れなかった。後に「もっとちゃんと聞いていればよかった」と悔やんだ母親だったが、店内の騒音はあまりにも激しく、隣の席の人と会話するにも大声をあげなければならないほどだった。わずか4歳の子供の発する声などはっきり聴きとれるはずもなかった。

「ただ、何かの『おじちゃん』と言ったように思います。それがどんな『おじちゃん』なのかまでは、聞き取れなかったのですけれど......」(母親)

 同時刻頃には、父親が長椅子に座っているゆかりちゃんの姿を確認している。その時は、確かにまだ無事だった。両親は、パチンコをしながらも、ときどきゆかりちゃんを気遣ってその姿を確認していたのだ。

 そして......その後、そのままゆかりちゃんは姿を消してしまった。

 午後2時頃、ゆかりちゃんの姿が店内に見えなくなっていることに両親は気付き、慌て出した。ゆかりちゃんが座っていたはずの休憩コーナーの長椅子には、まだ食べかけのおにぎりやジュースが残っていたという。

 午後2時10分頃、外の駐車場や国道などを探していた父親は、そのまま近くの高林交差点にある交番に駆け込んだ。しかし、交番には誰もいなかった。最近、問題になっている「幽霊交番」だった。

003.jpgパチンコ店からこの交番に駆け込んだが誰もいなかった


 そこで慌てて電話で太田警察署に通報したのだ。
そうなのだ。犯人である「あなた」は午後1時40分から午後二時までの間に行動を起こしたのである。ゆかりちゃんをどこかに連れ去ったのだ......。


「おじちゃん」に連れ去られたのか


 通報を受けた直後、群馬県警察本部と太田警察署では152人の警察官を動員して、ゆかりちゃんの行方を捜し始めた。事件、事故両面をにらんでの捜査となった。

 事件当日にパチンコ店に来た客のうち274人については、捜査員がかなり詳細な聞き取りを行った。しかし、皆、パチンコに夢中で、有力な手がかりがはあがってこなかった。
 パチンコ店の店員についても同様だった。同時に現場のパチンコ店から西方250メートル余りを流れる八瀬川沿岸や八瀬川が下流に下って合流する石田川や利根川の河川敷などを、警察犬も動員して捜索した。しかし、何も発見できなかった。

 パチンコ店の裏手には木材工場があるだけで、あとは住宅街だった。しかし、休日で木材工場には人影はなかった。また、周囲の住宅街は日中にはやはり人通りがなく、ゆかりちゃんを目撃した人は見つからなかった。

004.jpgパチンコ店裏の木材工場


 わずかに南側の駐車場に面した路上で、小さい女の子を白っぽい乗用車に乗せたという目撃証言を得ることができたが、その運転手などを特定できるほどの情報ではなかった。

 ゆかりちゃんが行方不明になって三日後、事件は公開捜査となった。しかし、有力な情報はなかなか集まらなかった。ゆかりちゃんの母親は、

「この時に迅速な公開捜査をしてくれていたら......」

 と、悔やんでいる。しかし、警察としても営利誘拐の疑いがゼロとは言えない以上、拙速な公開捜査はまずいと考えていた。ゆかりちゃんの両親も、パチンコで遊んでいる間に娘が行方不明になったということに負い目を感じ、警察の捜査に強く注文をつけることに遠慮してしまった(その後、警察ではこのようなケースでは公開捜査を積極的に行う方針も採用するようになった)。

 捜査は八方ふさがりを迎えたかに見えた。しかし、問題のパチンコ店の防犯カメラに有力な情報が残されていたのだ。

 そう、ゆりちゃんを連れ去ったと思われる犯人の「あなた」らしき姿が記録されていたのである。

「その人物を、事件当初はゆかりちゃんの行方を知る手がかりを持つ参考人として、捜していました。しかし、1ヶ月経っても名乗り出る人はおらず、これは犯行にかなり関わっている可能性は高い人物ではないかと認識し始めたのです」(太田署の捜査本部)


店内監視カメラの不審者は小柄な男性


 男はいったいどんな人物で、どのような行動をとっていたのだろうか。防犯カメラなどから男のとった動きを振り返ってみよう。

 男がパチンコ店に入ってきたのは、午後1時27分のことだった。
 身長が約158センチと小柄。白っぽいシャツの上に、黒の長袖のジャンパーらしきものを羽織っていた。ジャンパーには肩から脇腹にかけて「ハ」の字形のラインが入っていた。ラインの幅は、およそ2~3ミリ程度と見られ、このようなジャンパーは事件当時から15年ほど前に複数のメーカーが製造し、全国で販売したという。下半身は職人や肉体労働をする人がよく着用するニッカ―ポッカ風のズボンを履いていた。足元はサンダル履きだった。

「そして頭には野球帽のようなツバのついた帽子をまぶかにかぶり、さらにサングラスをかけていました。その風体は、まるで最初から顔を隠しているかのようでした」(捜査本部)

 男はガニ股歩きでよたよたしながら店内を歩いた。
 男はまず、店内の奥の人目につかない位置に消えた。おそらくトイレに入ったのだろう。そして約3分後、姿を現した男はやはりガニ股歩きで店内を徘徊し始めた。パチンコをやる様子は全くなかった。パチンコ台の前に立ち止まってその釘の具合を見るでもなかった。男はただ店内を何か探しものでもするかのように首を時々振りながら歩き回るだけだった。

 そんな時、男とゆかりちゃんは景品コーナーの前ですれ違った。時間は午後1時30分ちょうど。その瞬間から、男はゆかりちゃんの後を付け回し始めた。この時、男は何とゆかりちゃんの後を追いかけながら、ゆかりちゃんの母親の真後ろを通り過ぎているのである。大胆な行動だった。

「男はゆかりちゃんの行動を追い、観察しながら、注意深くゆかりちゃんの両親の座る位置を確認したものと思われます」(捜査本部)

 午後1時33分、ゆかりちゃんは入り口近くの北西側の長椅子に腰かけた。
 午後1時35分、男もゆかりちゃんの右隣に座った。男は左手でタバコを吸い、ゆかりちゃんの前の灰皿にタバコの灰を落としていた。

「この時、ゆかりちゃんは退屈した時に子供がよくするように、椅子の上で身体を揺らして、遊んでいました」(捜査本部)

 しばらくすると、男はゆかりちゃんに話しかけてきた。そして、右手で3回、店外を指さした。まるで何かに誘っているかのようだった。ゆかりちゃんは、ワンピースの裾を両手で持って、十数回ヒラヒラさせていた。人見知りしているような感じではなかった。

午後1時42分、男はゆかりちゃんを長椅子に残して席を立ち、外へ出ていった。ゆかりちゃんは、母親の元を訪れた後、再び長椅子に座り、男が出ていったのと同じ北西角の出入り口から外に出ていった。午後1時45分のことである。


ビデオから解析した男の顔の特徴


「ゆかりちゃんが最後に長椅子に座っているときに、男が外から誘い出した可能性は高いですね」(捜査本部)

 ゆかりちゃんが母親に話した「......おじちゃん......」とは、このサングラスをかけた黒服の男にほぼ間違いない。そして、ゆかりちゃんが出ていく直後まで男と会話しており、まるで男に誘われるかのように屋外に出ていったことから、犯行に重大な関係があると思われた。いや、おそらくはこの男こそ、犯人である「あなた」ではないだろうか。

 少なくとも、事故ではないことは確かなようだ。これは明らかに「あなた」の邪悪な意思によって引き起こされた「事件」なのである。 
 その後、防犯ビデオの映像をもとに、警察庁科学警察研究所と大手ビデオメーカー三社で男の横顔の画像を解析した。その結果、次の三つの特徴が判明した。

1 鼻が極めて高い
2 あごが出ている
3 頬骨が高い

 年齢は20~50代であるものと見られている。防犯ビデオは繰り返し使用されていた旧式製品であるうえ、画面を四分割して使用しているものだったことから、これ以上詳細なことは分からなかった。
 果たして、「あなた」の容姿は上記の特徴に当てはまるだろうか。この男のビデオは、事件発生から1ヶ月経ってから、ようやく公開されたのだ。

005.jpg公開された犯人と思われる人物


 捜査本部の置かれている太田警察署を訪ねた時のことである。私の目の前に、ゆかりちゃん事件に関して、これまで広報された書類の束が置かれたのであるが、その厚さたるや、まるで電話帳のごとき分厚いものだった。 事件発生以来、経た年月の長さと捜査の苦労を物語っていた。その捜査本部でこんな話を聞いた。

「太田市を中心とする東毛地方は、群馬県内でも最も犯罪発生件数が多いところなんだ」

 残念ながら、その統計的数字はないというが、窃盗やコンビニ荒らし、傷害などほぼあらゆる分野で「東毛地方は犯罪発生件数が多い」というのが群馬県内の「常識」となっているようなのだ。いったいなぜなのだろうか。<以下次号に続く>

(文◎石川清 「ダークサイドJAPAN 2000年10月号」より加筆) 

  • LINEで送る
  • ブックマークする
  • シェアする
TABLO トップ > 社会・事件 > 「サングラスのおじちゃん...」 横山ゆかりちゃん失踪事件を未解決にしてはいけない!(1)

連載コラム

  • ほぼ週刊吉田豪 僕がなぜこれをRTしたのか
  • プチ鹿島の「余計な下世話」
  • 青木理「逆張りの思想」
  • 川奈まり子の奇譚蒐集 キュリオシティ・コレクション
  • 中川淳一郎の俺の昭和史
  • TABLO編集長・久田将義 偉そうにしないでください。
  • 岡本タブー郎 テレビのムカつく奴
  • 朗読詩人 成宮アイコ 傷つかない人間なんていると思うなよ
  • 悪役YouTuber・シバターの「おまえら、ユーチューバーなんかになるな!」

動画配信中!

  • 001-03_03.jpg

広告募集

  • adbana.jpg
ページトップへ
スマートフォン用ページを表示する