被害女性は事件発生時を振り返って、
「本当に気持ち悪かったです。もう今住んでいるアパートからは引っ越そうと考えています」
と供述していました。
事件発生時、時刻は午後8時くらいでした。彼女は自宅で過ごしていました。
「家にいて、カーテンの向こうからフラッシュの光が見えました。はじめは雷かと思いましたが、カーテンを開けてみるとベランダの室外機に男性が座ってました。『何してるの!』と叫んだら、その男はベランダ伝いに隣の205号室に逃げていきました」
彼女はすぐに110通報し、その後の捜査の末に逮捕されたのは205号室の住人、服部英祐(仮名、裁判当時56歳)でした。
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彼が205号室に引っ越してきたのは逮捕される約10ヶ月前のことでした。
以前は北海道で自動車整備工として稼働していましたが上京してからは持病の喘息や腰痛などのために働くことは出来なくなり、205号室に暮らしている間はずっと無職で生活保護を受けて暮らしていました。
そんな彼が被害女性を初めて見かけたのは引っ越してから1週間後のこと、アパートの外廊下ですれ違った時でした。その時のことを被害女性は全く覚えていません。彼女は事件発生時まで自分の隣の部屋にどんな人間が住んでいるかも全くわかっていませんでした。
しかし彼は違いました。
「ばったり隣の子に外廊下で会って...一目惚れでした」
彼の両親はこの時すでに亡くなっていて、二人いる弟とは音信不通になっていました。他に親族はなく、東京には友人、知人もいません。
職に就ける状態ではない彼には行く場所もやらなければいけない仕事もありません。かといって、誰か話をする相手がいるわけでもありません。そんな中で彼は、偶然に巡り会った女性への想いを膨らませ続けました。この時まで前科前歴もなく犯罪と無縁の生き方をしてきた彼でしたが、抑えきれなくなるほどに募ったその想いは彼をあらぬ行動へと走らせてしまいました。
「初めて会ってからなかなか会う機会がなくて、せめて写真が欲しいと思うようになりました」
はじめは自分の部屋のベランダから身を乗り出して被害女性の部屋を撮影していました。それがいつしかベランダに侵入して撮影をするようになり、常習的に繰り返すようになっていきました。
干してある洗濯物を室外機の上に並べて...
「気が向いた時に隣のベランダに侵入してました。数えきれないくらい入ったので、回数はわかりません」
彼のスマートフォンからは、カーテンの隙間から被害女性の部屋内の様子を撮影した動画が何本も保存されていました。被害女性が食事をしている動画や、テレビを観ていたり本を読んでいたりする動画など、他愛もないものばかりでした。
「大好きだったから、写真がほしかったです」
そう語っていた彼は、保存した動画を自室でどのような気持ちで観ていたのでしょうか? 彼女が在宅していない時などに撮ったものだと思われますが、干してある洗濯物を室外機の上に並べて撮影した画像も保存されていました。
「いつか許可を取って撮影させてもらおう、と思っていました」
と供述してはいますが、10ヶ月の間で彼女に話しかけるなどの行動は一切取っていません。それが出来る人であればこんな犯行は犯さなかったと思いますが、彼は出来ない人でした。
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当然のことながら裁判では検察官に責められ続けていました。
「被害者の気持ちって考えたことありますか? 今後トラウマになったらどうするんですか? 知らない人がベランダにいるって、女性からしたらどれだけ怖いかわかりますか?」
何を言われても何も言い訳はできません。生活保護を受けて生活している彼は被害弁償もできません。ただ謝るばかりでした。それでも反省の言葉として、
「拘留されている間、ずっと彼女のことを考えていました。彼女のことが心配で心配で、夜も眠れなくなることがありました」
と述べていました。56歳の彼にやって来た「一目惚れ」は、まだ終わっていないのかもしれません。(取材・文◎鈴木孔明)