TABLO編集長・久田将義 偉そうにしないでください。

宅八郎氏というトラウマ|久田将義・連載『偉そうにしないでください。』第七回

2018年01月21日 

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出版界において、「筋を守る」「矜持」ということはどういうことなのでしょう。例えば、「反論権を守る」「公人でない人を記事に載せない」「弱者を叩かない」などなどがあるでしょう。

もう一つ、著作で書いたようしたように「言論の自由とは何を書いてもいい。その代わり何を反論されてもいい」ということだと思っています。要するにこれは「反論権を担保する」という事なのでけれどね。意外とこれを忘れている編集者、雑誌が多いのに気づきます。

で、僕はほぼ、それを頑なに守っているつもりでしたが、そのせいで十二指腸潰瘍になってしまったことがあります。ヤクザから「殺したるからなぁ」(http://tablo.jp/serialization/hisada/news002709.html)とか「東京一危険な男」から「刺すぞてめぇ」と言われたのに大丈夫だったのに(http://tablo.jp/serialization/hisada/news002719.html)。

「十二指腸潰瘍」になった相手は有名ライター・宅八郎氏でした。僕は今でもこの人に生理的恐怖感を持っています。何をするかわからない不気味さがあります。苦手な爬虫類、両生類と対峙した時のような感じです。

実は詳細は、宅氏のホーページで詳細が明らかにされているのですが、ことら側の私見も記載しておきましょう。

宅氏は一世を風靡したライターといってよいでしょう。文章力は天下一品です。知り合う前は、編集者としてそこに憧れていました。

ただし、この人は編集者やライターとは長続きしないという噂がありまして、それは単に宅氏が「筋を通しすぎる人」だからと考えていました。むしろ、筋を通さない編集者が悪いのだという解釈です。

テレビ出演もなくなり、当時、あまり仕事をしていないと聞いていまた。『SPA!』誌上で小林よしのり氏とのいざこざでツルシ編集長とともに雑誌を去らざるをえなかったことも要因でしょう。

『噂の真相』の連載を降りたときのいざこざは後に色々な人から聞いたのですが、『SPA!』のいきさつは『教科書が書かない小林よしのり』(ロフト出版)に詳しいです。今回はそれが本題でないのでここは流します。

この才能を埋もれさすのはもったいないと僕は考えました。多少気むずかしいところもあるのでしょう。しかし、才能ある人に限ってそういう点もあるわけだし、そこを何とかするのが編集者の腕の見せ所(この時点で僕は宅さんと面識はありません)。

宅氏の原稿は臨場感、皮肉、相手へのダメージを与える文体など、あれだけ書けるライターはなかなかいない。奇才といって良いです。その才能に触れてみたいと思ったのです。編集者ならそう思うものです。

そして、実際の原稿は編集者生活の中でも記憶に残るものでした。サブカルで言えば青山正明、杉作J太郎、吉田豪、そして宅八郎各氏の原稿は、貰った時「すげぇ」と声を挙げたくるものでした(ノンフィクションはまた違う人がいます)。


いざこざでとうとう十二指腸潰瘍に


あるライターに紹介してもらい、宅氏と初めてお会いしました。渋谷の鯨料理屋で飲んだのをおぼえています。それから、僕が前からどうもうさん臭いと思っていた自称「サブカル界の黒幕」・中森明夫氏の批判記事を書いてくれと依頼しました。

機嫌よく引き受けてくれまして、内容、原稿料などを確認のうえ執筆の運びとなりました。締め切り間近、原稿が届きました。多少、宅氏の毒が抜けているような印象もあったが、僕としては充分「黒幕ぶり」を斬ってくれたと思い、満足のいく出来だったのです。

「上手いなあ」

原稿を見た第一の感想です。
この記事を読んだ中森氏は怒るだろうか、またいつもの内容証明書を送ってくるだろうか。いずれにしても僕はヤクザや右翼のような方々の反撃を受けていたので、こういったサブカル界の場合どのような文面で反撃してくるのか、興味があるというより、ほとんどウキウキした状態で待っていました。ハッキリ言うともう喧嘩腰でしたが、結局反論はありませんでした。

「反論権を守る」という原則からすれば、反論を載せる事も当然考えていました。

ところが、別の方からの反論権を守らなければならなくなりました。原稿の中でライター金井覚氏のことに触れてあったのです。宅氏のホームぺージで実名記載されていますが、ここでも記します。
原稿の趣旨は「黒幕中森」批判なのですが、金井氏に関する記述はあまりよくはない内容が書かれていました。

すなわち、
「金井氏が内容証明の抗議をもらった時点でかなりビビっていて、ボクに泣きついた。公開討論の場もボクが指南書を作ってやった」(ボク=宅氏)
というような内容でした。

金井氏から発売後数日たってから電話がありました。この記述について、ひとこと言わせてくれという事です。僕はそのことを宅さんに伝えました。これは金井さんからの反論です。これは誰もが持っている「反論権」ですから、これを守らなければならない義務が編集者にはあります。

すると、宅氏は「次号で掲載するから追加取材させてくれ。それは自分の名前で書いた記事が読者に対して欠陥品を提供したことになる。だから反論を掲載するのではなく、追加取材をさせてくれ」と言います。巧みな言い方と僕には思えました。

一旦は僕もその言葉に納得してしまい(言いくるめられた訳です)、金井氏にその旨を伝えました。
「追加取材する形でどうですか」と。

しかし、後から考えると、書かれた側には反論権があり、追加取材は宅氏の「わがまま」に近いです。あるいは、その頃宅氏と金井氏は仲が良くなかったため、宅氏としては金井氏の反論などもってのほかだと思ったのかとも推測しました。

ここで僕は板ばさみになります。

宅氏の言うとおり追加取材をするか、金井氏の言うとおり反論を載せるか、です。ただ、一度、宅さんに「金井さんを説得してみます」と言ってしまった手前、再度金井氏に"追加取材"のお願いをせざるをえなかったわけです。

しかし答えはノー。再び、宅氏にメール。その時、さすがだなと思ったのは宅氏は論客としての才能を駆使して、一度僕が金井氏を説得すると言ったことをついてきました。僕にとっては痛い点です。なぜ最初に反論権を持ち出さなかったのでしょう。悔やまれます。しかし、軌道修正をせざるを得ません。原則論を僕は通そうと思いました。やはり金井氏の反論権を守ろうと。

そして何よりつらかったのが、宅氏に対して疑問点がわいてきたことです。僕の編集者としての不手際は認めます。
しかし、読者の皆さんも自分に身を置き換えて考えてほしいのです。ある公の媒体で少しでも自分のことを書かれた場合、それに対して間違っている点があれば反論したくなるというのが普通ではないでしょうか。
僕は前記したように「言論の自由とは何を書いてもいい。ただし何を反論されてもいい」という思いがあります。
そして、そのことをメールで宅氏に送りました。

「宅さんの言葉を伝えるとは言いましたが、追加取材を認めたわけではありません。だから、金井さんの反論を掲載するつもりです。金井さんには反論権があります」

ただ、そういったやりとりをしているうちに、僕自身、出版業界における筋を通しているつもりなのに、「僕のしていることは、間違っているのではないか」というパラノイアックな心境に陥ってしまったのです。そしてとうとう、車の運転中も胃のあたりに痛みが走り、路肩に止めて休まなければならない状況になってしまいました。

たまらずにある人に事情を説明しました。

すると「それは君が正しい。どんな小さなことでも反論する権利はある。だから、反論を載せる。それに対してまた反論をする。それを何回か続ける。回数は編集権で設定する。どちらが正しいのか、どんな感想を持つのは読者の判断に任せるべきだ」と言いました。

全く僕もその通りだと思い、また宅氏にメールします。その頃、僕は完全に開き直っていました。腹をくくりました。これ以上、この人とかかわることは無理だと思い、また、なぜこの人が編集者、ライターから離れていくのかわかる気がしたのです。

最後のメールは絶縁宣言です。もうどうなっても良い、と。「色々ご迷惑をおかけしましたが(中略)今後どんな形であれ、あなたとお付き合いする気はありません」という内容を送信。もう関係ない。何言われても何をやられても受けて立つという気持ちでした。

何より十二指腸潰瘍が悪化していましたし、ゴールデン街のバーでグチをこぼした際、元『噂の真相』岡留安則編集長から「僕も胃をやられた。気をつけないと」と言われたがその言葉を体感したというわけです。岡留さんのような剛腹な編集者が胃潰瘍をやられたのですから、僕みたいなペーペーはひとたまりもなかったです。

結局金井氏の原稿は1ページで掲載しました。反論権を守った事になります。

それはいいのですが、金井氏自身、腰が引けて「あくまで反論というタイトルはつけないで」と強調したのはガクっときました。

よほど宅氏が恐かったのでしょうが、では反論以外の何を載せるというのでしょう。まさか感想? 反論でないのなら書く意味がないではないかと思いますし、僕が宅氏と交渉してきたのは何だったのかとこれまた不信感を抱きました。

なのでおかしな「反論」が掲載することになりました。あ、反論ではないのか。では何で載せろと言ったのでしょうかね。

が、とにかく僕なりに未熟ながら「筋を通した」つもりでした。クレームで十二指腸潰瘍になったのはこのケースだけで、宅氏とかかわることの恐れをいまでも抱いています。(「トラブル」なうより再録・加筆)


文◎久田将義

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