能町みね子さんと映画「スリービルボード」を観に行ったら「相撲協会と貴乃花騒動」の話になった!

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コラムニスト・イラストレーター能町みね子さんに仕事を依頼しようとしましたが、完全に締め切りに追われているようなので、「気分転換にとりあえず映画でも見ませんか」とお誘いした後、映画の感想が面白かったので勝手に原稿しにてみました。(能町さんの許可取っています)

※映画の内容のネタバレアリ!!!!

――『スリー・ビルボード』いかがでした?

能町みね子さん(以下・能町):突然あらたまって(笑)。

――いやいや(笑)。プチ鹿島さんの相撲協会と貴乃花への見立てがあったじゃないですか。暴力いけないっていうのとか、三つの看板とか。http://tablo.jp/serialization/pkashima/news002865.html

能町:プチ鹿島さん、すごい見立て方するなと思って。

――ヒロインのフランシス・マクドーマンドは貴乃花親方に見えました?

能町:うーん……正直、あんまりそこまでは思わなかったけど。彼女はホントに孤軍奮闘って感じでしたけど、相撲の事件の話をいろいろ聞いてる感じだと、貴乃花親方はべつに孤軍奮闘というわけでもないので。
 最近の大相撲の問題はふたつの勢力の諍いだっていうのは世間的にもバレてると思うんですが、巨大な敵に闘いを挑む個人っていう風にした方がみんな味方しやすいので、ワイドショーはそういう構図を作ったと思うんです。でも実際はそういうわけではないと思ってて。

 映画も現実も正義vs悪みたいな簡単な話じゃなくて、正義っぽい人にもひどい部分があって、悪人っぽい人にも生活があって、みたいな話が私は好きなんですよね。
 フランシス・マクドーマンドは全然いいお母さんじゃないじゃないですか。殺された女の子もお母さんといがみ合ってるし、もし生きてたらどんな悪い子になるか分かったもんじゃない。息子は最終的にもなんとなく協力体制になってきましたけど、途中まではお母さんと仲が悪かったですしね。

「スリービルボード」で学ぶ相撲協会のゴタゴタ
「誰が正義とは言えない」

――色々な事を見ていくと、日馬富士暴行事件から起きた一連の騒ぎってちょっと複雑になっちゃいますね。

能町:そうですね。それこそ誰が正義とは言えないし、一部のワイドショーが相撲協会を「悪」と決めこんでるのはどうかと思うんです。
 確かに悪いところはたくさんあるし、ワイドショーで相撲協会の味方をしている人が悪手ばかり打つようなところもあったんですけど……。

――メディア的に言うと、池坊保子評議委員長さん、良くなかったでしたね。

能町:なんであんな人ばっかり味方になるんですかね……(笑)。

――貴乃花親方の礼儀・服装がなってないからとか言っていました。

能町:問題はそういうことじゃないんですけど。池坊さんなんか出すから逆風吹いちゃうのになって。かといって私が出るかっていったら、出たくないんですけど(笑)。

――能町さんが相撲協会と貴乃花親方の対立で、問題にしてるのはまず小林慶彦元理事の影ですよね。

能町:小林元理事が協会に在籍していた時代、「力士の名前を使ったパチンコ台を作る」という計画をしていて、それに反対する理事を説得するという名目で業者から裏金を受け取るという、とんでもない動画があるんですよ。「絶対にバレんようにしてくれる?」なんて言ってて。

 これは当時YouTubeに上がってかなり問題になりました。取引相手が撮影して、ネットに上げたんです。で、いよいよこの人はアウトだってなったはずだったんですけど、これを担当した元検事で現・弁護士の宗像紀夫氏が、「この金は返したはず。だから問題ない」っていう無理やりな理屈でおとがめなしにしちゃって。

 のちに小林元理事は八角理事長から協会を解雇されるのですが、その一方で、宗像紀夫氏は貴乃花親方全面擁護の記事を何度も『週刊新潮』に寄せてるんです。なので、彼らが八角理事長下ろしのために貴乃花親方に擦り寄っているという構図があまりにも明らかなんですね。この辺は宝島社の「貴の乱」や、夕刊紙などで詳しく書かれてますけど。

――逆風が吹いているかと思いきや、大阪場所は満員御礼ですよね。

能町:確認したら、場所前の時点で全日程・全チケット売り切れなんです。相撲ファンはちょっと引いて冷静に見てる。揉め事もあるけど相撲自体は面白いから、みたいな。

――土俵を見てると面白いんですけど、外野が……。外野っていうのは僕らも含めたメディアですけど。

能町:「土俵は面白い、協会は嫌い」って言い方するファンすらいますね。私はそこまでは言わない……ってことにしておきますけど。協会も一枚岩じゃないので。

――能町さんは相撲は面白いし守らなきゃいけないっていう立場ですかね。

能町:面白いし、守りたいですけど、協会はそのためにもうちょっとしっかりしてくれとは思ってます。世間が「隠蔽体質」とか言うんですけど、むしろ逆だと思ってます。他の業界に比べたらまったく隠蔽できてない。ダダ漏れしすぎですよ(笑)

「隠蔽するべき」っていうわけじゃないですよ。でも、多少は情報を管理する体制がないと。軽微なものから重大なものまでボロボロ全部メディアに漏れた状態だから、大きくてややこしい問題よりも小さくて分かりやすい問題が叩かれまくるわけです。芸能界の問題なんか軽微なセクハラだのパワハラだの言い出したら相撲界をはるかに上回るぐらい大量にあるんじゃないですか。

 たとえば、力士って、ジャージとかラフな格好で繁華街を歩いちゃいけないんです。それはもちろん法律でもなんでもなくて、文化とか粋とかの問題。ファンからするとやって欲しくないことだし、ちゃんと浴衣なり、正装で歩いて欲しいんです。元力士の把瑠都がラフな格好で六本木で飲んでいて、当時大関だったので、それなりに問題になったなんてことはありました。

 でも、ある親方から聞いたんですけど、どう考えてもファンじゃないクレーマーみたいな人から「力士がジャージで歩いてましたよ」っていう苦情が、協会に毎日のようにあるらしいんですよ。「ここでジャージで歩いてる力士見ました。いいんですか?」って。

 あなた別にファンじゃないんだからそれはいいでしょ、って思うわけです。力士だって、部屋の近くのコンビニに行くのはジャージですよ。そんなのは別にファンだって協会だって問題にしない。でも、たぶんそのレベルでも通報が出ちゃうんですよね。軽微なものでもけしからん、という考えが行きすぎると、そんなことになってしまう。

――難しいですよね、相撲は満員になってるわけで、でもテレビの視聴者は違うんですよね。

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相撲関連番組でのコメンテーター
「コメンテーターの依頼? 絶対嫌です(笑)」

能町:いまレスリングが問題になってきたじゃないですか、あれ、相撲みたいになるのかなと思ってて。

――既になってますよね。栄監督が八角さん的になってますね。

能町:私は一切レスリングのことは分からないので、もしかしたら栄さんがすごくいい人の可能性もある、と思うわけです。外野だからそんなもんです。はっきりいって、どうでもいい。
 でも、ワイドショーを観ていて思うんですけど、ああいうところに出て、出てきたニュースに対して「こんなもん取り上げる必要ないじゃないか、どうでもいい」って言ったら終わりなんですよね。禁句ですよね。でも私、ワイドショー観てるとそういうふうにばっかり思うんですよ。

――あれって、でも瞬間視聴率を見ながら放送しているので需要があるんですよ。

能町:そうなんでしょうね。でも、相撲もレスリングも、最近の不倫もそうですけど、「これ、別に取り上げなくていいじゃん」って思っちゃうんですよね。その禁句以外のことでいろんなことを言わなきゃいけないなんて、つらい職業だなと思って。本当はどうでもいいけど、何か言わなきゃいけないから、事情を調べる気もなく「相撲協会けしからん」って言うわけでしょ? ついこないだまで貴ノ岩の存在すら知らなかったくせに。

――コメンテーターとかの依頼って、絶対嫌じゃないですか?(笑)

能町:絶対嫌です!(笑)

――わけ分かんないのに、なんでコメントしなきゃいけないの? みたいな。

能町:どうでもいいことに対して侃々諤々やらなきゃいけないわけで。

――逆に今は、見ない日はない坂上忍さんとか、かわいそうかなと思いますね。

能町:相当覚悟を決めないとあんなことできないですよね。坂上さん、絶対相撲に興味ないですよ。

――貴乃花のところに鏡山さんが行くじゃないですか、門前払いされるじゃないですか。元力士の大至さんのコメントが「人道に反する」とか言って、戦争じゃないんだから頼むよと(笑)。

能町:とっさに選ぶ言葉がそれになっちゃうんでしょうね。そこまでのことじゃないんですけど。

――横野レイコさんはレポーターじゃなくて肩書は、相撲関係者でいいじゃないですか。安倍政権を代弁する田崎史郎さんみたいな感じですね。まあ、最近は森友問題がヤバすぎるのであまり擁護もできないようですが。

能町:横野さんが反感を買うのは分からなくもないですけどね……。協会のスポークスマン感が強すぎるんでしょうね。

横綱としての貴乃花は最高

――貴乃花って生い立ちから全部含めてどういう評価をされてるんですか?

能町:私、横綱としてはめちゃくちゃ好きです。いままでの横綱でトップで、たぶん貴乃花より好きになる横綱はいないんじゃないかな。相撲も内容が素晴らしいです。基本的に、まず相手を受けるんですよね。
 受けて、相手にある程度攻めさせて、いつの間にか自分の得意な形になって、じわじわと相手がどうにもならない状態にして、よっこらしょ、みたいな感じで寄り切る盤石な相撲。
 特に覚えてるのは、上がってきたばかりの荒くれ者の朝青龍を仕留めた相撲ですね。暴れまくる朝青龍を最終的にはねじふせて、最高にカッコいいです。朝青龍は結局最後まで貴乃花に一度も勝てずに終わってるんです。

――四股がカッコいいですよね。

能町:四股もきれいですね。

――脚がぴーんとなって。

能町:体もきれいだし。

――ジャーナリストの武田頼政さんらが八百長問題を追及していました。あのときは、相撲界暗黒時代ですか。

能町:あれは貴乃花が辞めたあとぐらいですかね。朝青龍の相撲なんてホントはすごく面白かったのに、あの頃は大相撲全体がそんなに人気なかったですよね。朝青龍が辞めて白鵬時代になって、人気がないところへとどめみたいな感じで賭博事件と八百長事件が起きて、どん底までいったんですよね。

――「当たって流して」みたいな八百長を示唆するようなメールが報道されました。やっぱりそうなっちゃうんだろうなって気がしないでもないですけどね。ずっと、巡業とか一緒に行動していたりすると。

能町:相撲協会はあのときに「いままで八百長はなかった」って言い張ったんですけど、それはいくらなんでも無理筋じゃないかと私は思いました。
 それまでに何度もそういう暴露事件みたいなことはあったわけ。で、昭和の時代からずっと問題となっていて、健全化を図ってきた歴史がある。
「いままでにもあったし、やめようとしてきたんだけどこういうことが起きてしまった」って素直に言えばいいと思うんですよね。

――貴乃花が言う改革って、強いて挙げればそこですかね、八百長的な問題を根絶するという。

能町:ご本人が何も言わないからそれは具体的にはよく分からないんですけど……。ただ、最近の貴乃花親方の騒動に眉をひそめるような親方や相撲ファンであっても、貴乃花の相撲自体は認める人が多いし、あの部屋の稽古は本当にすごい、って言われますね。目指している相撲自体は素晴らしいものなんじゃないかと思います。

――貴乃花が38歳ぐらいのときに『情熱大陸』に出て、「身体中が痛くて」って言ってましたもんね。武蔵丸とか曙とかを相手にしていたので。

能町:めちゃくちゃデカい人と闘ってましたからね。それはもう満身創痍だと思いますよ。貴乃花親方にいい味方がついてくれれば、とはずっと思ってます。

「スリービルボード」はマイノリティの描き方が秀逸

能町:……すっかり相撲の話ばっかりしてますけど(笑)。

――「能町さんと『スリー・ビルボード』を観に行って相撲のことを語る」っていうのでいいんじゃじないですか?(笑)

(※ここから映画のネタバレ有り)

能町:多少は映画の話に戻しましょうか……(笑)。『スリー・ビルボード』で私が好きだったのは、マイノリティがたくさん出てきたっていうことで。

――ああ、登場人物ほとんどがそうですよね。

能町:まず主人公は白人だけど、離婚して、母子家庭で、たぶん収入も少ない。

――化粧もぜんぜんしていないし。

能町:恵まれた環境ではないですよね。小人症のジェームズも当然マイノリティだし、ディクソン巡査もね、気づかない人は気づかないでしょうけど、確実に性的マイノリティですね。そのディクソンが黒人差別をしているし、主人公の友達は軒並み有色人種で白人の友達あんまりいないし。メキシコ差別も出てましたしね。「癌」だって、ある意味そうですよね。なんらかのマイノリティ要素を抱えてる人ばっかりですよね。閉鎖的な田舎だし。

――ミズーリ州ってそういう土地なのかな、と思いながら観ていました。ディクソンが飲んでいたバーとかあるじゃないですか、ちょっと安い感じの。その隣で飲んでるヤツはたぶんアフガンからどっかから帰ってきた戦士のような。

能町:そうですね、砂っぽいって言ってますからね、イラクとかアフガンとか、中東ですよね。

――ディクソンがぶん殴られて、容疑者のDNA採ったじゃないですか。で、鑑定して「違う」って言われたときの表情うまいですね。

能町:そうですね。役者さんみんな良かったですね。

――いろんなものを描いてましたけど、芯になるものっていうか、そもそもレイプじゃないですか。

能町:事件はそうですね。

――差別を描きたかったのか、真人間になるっていうのを……。

能町:複雑さっていうことなんじゃないかと思うんですけどね。なんでもかんでも一筋縄ではいかない。この人がいい人かと思いきやそうでもない、現実はそんなに簡単じゃないっていう。

――そうですね、どっちか割り切れないっていう。

能町:そういう話じゃないかなと思います、ちょっと簡単にまとめすぎですけど。

貴公俊の暴行の事情?

――そういえば貴乃花部屋の力士も暴行してしまいましたね。

能町:また相撲に戻りますか(笑)。貴乃花部屋の問題については様々にあるんですけど……今回暴行してしまった貴公俊と、その双子の弟の貴源治のことについてはもう去年から文春とかで語りつづけているので勘弁してください(笑)。二人とも、誰もが口を揃えて有望だという力士なんですよ。

 いま貴乃花親方が相撲協会にロクに出勤してなくて協会に睨まれてたりとか、マスコミがやたら宿舎に来たりとか、部屋の弟子が少なくておそらく付け人が足りてなかったりとか……まだハタチそこそこの双子力士がこの辺の事情をすべて背負うのは荷が重すぎますよ。相当いらだちが溜まっているんじゃないかとおもいます。だからといってもちろん他人を殴っちゃダメですけど……。どうか寛大な処分にしてほしいです。

――なるほど、そういう内情を見ると意外と色々な事がわかってきます。

能町:だから、物事には複雑な事情があるんですよ。『スリー・ビルボード』じゃないけど、何が正義で何が正義じゃないかって一口には語れないですよね。って、ほとんど相撲の話しかしてないじゃないですか。こんなんでいいんですか? (聞き手◎久田将義)