春の日差しを感じながら町を歩いていると様々な音に出会います。風に揺られる桜の花びらたちの合唱や、川の水面に漂う鳥たちが水浴びをする音、新学期の不安と期待に心を抱く小学生のランドセルが上下に躍動する音のように、季節ごとでも違う音色がわくわくさせてくれます。
その音を楽しみながら十条の町を散歩していると、聞きなれない音が私の中に迷い込んできました。なんだか落ち着いていて、その辺にある楽器では表現できないような魅惑な雰囲気を醸し出す音。中東の音楽です。そこにはメソポタミアと書かれたクルド人家庭料理屋さんが十条の町の中に溶け込むように存在していました。
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実はある事件をきっかけにクルド人の方たちに興味を持っていたため、このお店には関心がありました。彼らのルーツの一つである食はどのようなものなのか、何を食べ育ち、どのような文化に触れてきたのかそんな好奇心にそそられていました。
いざ訪れてみると入り口にはメニューが置かれているガラス張りのショーケースがあり、その横には店内へつながる階段がありました。店内の様子が見えないため入るのに少し戸惑ってしまいますが好奇心には勝てません。
階段を上っていると料理の写真やお酒、中東地方の写真やクルド人たちの旗などが飾られています。少し大げさになってしまうかもしれませんが、まるで日本から出て中東の世界を旅する感覚に陥ります。その旅の最終地点に店内への扉が待ち構えていました。
扉を開けると異国の世界が広がっているようです。織物でできたカバンや絵、中東地方の食器や水たばこなど日本では見慣れないものばかりが優しく包み込んでくる、そんな気分にさせてくれます。その世界に足を踏み入れると店主のチョラク・ワッカス氏が優しく出迎えてくれました。早速、席へ案内してもらい、メニュー表をいただきました。
しかし困ったことに、どの品も見たことがなく、そしてどれも美味しそうなのです。そこで今回はワッカス氏がこれは食べてほしいという品をいただくことにしました。彼が真っ先にこれは食べてほしいと提案してきた品がこちらです。
ラグビーボールのような形をした小さな揚げ物。ひき肉団子のブルグル包み揚げというものです。それと一緒に写っているのがナスのひき肉詰め。このブルグル包み揚げは箸で食べるか、フォークで食べるか悩みましたが、結局鷲掴みでそのまま口に運んでしまいました。その直後「美味しい」とつい心の声を現実に持ち出してしまいました。
ほかの料理に例えるならアメリカンドックの中に油の滴るひき肉炒めがぎっしりと詰め込んだ感じです。ひき肉のしつこさをいい感じにブルグルの生地で和らげていてとても絶妙なおいしさ。そこまで大きくないのであっという間に胃の中に納めてしまいました。ナスのひき肉詰めもこれまた絶品です。ナスのとろみとひき肉の味の強さが混ざり合って麻婆ナスの辛さを引いたような味。両方とも瞬間的に目の前から姿を消してしまいました。
次におすすめされたのがこちらのスープです。
ポテトヤニという料理です。ジャガイモとひよこ豆と羊肉を煮込んで仕上げたスープ。見た目は何となく辛そうだなと思ったのですが全然辛くありません。いろんなスパイスがはいっていてひよこ豆と羊肉が一段に引き立っていておいしい。特に羊肉がうまい。はじめは牛肉かと思い食べたのですが、少し弾力があってそこまで油っぽくなくとても美味しかったのでワッカス氏に尋ねたところこれは羊の肉でした。
こちらは後日再び訪れた時にいただいたミックスケバブです。初めて訪れた時に食べたかったのですがお腹がいっぱいになってしまい食べられなかったため再び訪問させてもらいました。
お店の雰囲気も味も日本だとあまり味わえないものばかりだったので、本当に中東を旅しているような感覚になってしまいました。働きながらだとなかなか海外に旅に行ける余裕はないですが昼ごはん感覚で行けるこのメソポタミアさんのお店は、とてもおすすめです。(文・写真◎宮原塁)
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