天心対メイウェザー戦になぜ「八百長説」が出たのか 武尊対天心戦の価値が下がったのではという危惧

mayweather.jpgカネロと戦うメイウェザー。メイウェザーInstagramより

大晦日のRIZIN興行がまだ尾を引いています。那須川天心 対 フロイド・メイウェザーがフィクスドマッチ(八百長)ではという論調がMMA選手たちから起こっています。

が、これは海外の選手たちからの反応。
裏を返せば、「こんなバカバカしい試合、俺たちの試合ではあり得ない=フィクスされているに決まっている」という「海外の」MMA選手たちの素直な感想なのでしょう。

試合を見る限り、どう見てもフィクスドマッチではありません。最初のダウンで疑問が湧いた人もいるでしょうが、天心の左ストレートを避けた(当たっていません)後、メイウェザーが早めに終わらす作戦に出ます。すなわちガードを固めて前進。天心もパンチを出しますが意に返しません。5kgの体重差がいかにボクシングにおいては大きいのか分かります。

運営はこの時点で「ボクシングをナメていた」ことに気づいたのではないでしょうか。高田延彦さんの試合前の「さあ、別れたよ、始まるよ!」のはしゃぎっぷりと試合後の「やらせない方がよかった」の手のひら返しコメントで、それが見て取られます。

左のショートフックが天心選手のテンプルを捉えました。「ポン」というようなパンチでしたし、拳の平で叩いたようでしたから、効いたように見えなかったのですが、天心選手の立ち上がり方。あれがフィクスドだったらオスカー物の演技力です。実際のボクシングでも「あのパンチ効いたの?」というダウンシーンはよく見ます。ブロックの上からでもダウンします。

二度目のダウンはアッパー。メキシカンボクサーはアッパーを得意としていますが、現在のパウンドフォーパウンド(PFP)のNo.3以内に入るスーパースター、サウル・カネロ・アルバレス(彼もアッパーが得意)をはじめ、数々のメキシカンボクサーに勝利してきたメイウェザーならお手の物のパンチ。

それでも那須川選手は、練習の賜物でしょう、懸命にパンチを出し、メイウェザーの前進を両手で止めます。が、既にメイウェザーは「このくらいの力で『軽量級』は倒れるんだ」と計算したと思います。三度目も軽いフックでダウン。

「ゴールデンボーイ」オスカー・デラ・ホーヤなど大きな選手と戦ってきたメイウェザーにとって軽量選手とエキシビジョンとは言え試合したのは初めだったと思われ、得意の神ディフェンスを出すまでもなかった訳です。

エキシビジョンはスパーリングのようなものです。スパーでもダウンはあります。ですから大晦日で、しかもメインでスパーリングをなぜファンに見せる必要があるのかと書きました。

酷すぎる那須川天心選手の扱い RIZINは何を考えているのか 高田延彦氏の心ない解説にも注目

 危惧されるのが、空気的に出来上がりつつあった、山本KID 対 魔裟斗戦以来の「世紀の一戦」になるかも知れない、武尊 対 天心戦の実現です。

原稿でも書いた通り、同じ階級で、同じ条件で、戦ってこそキックもボクシングも名勝負が生まれます。今回のは運営がファンの希望を無視した茶番でした。

あえて指摘しておきますが、ファンも「ダメなものはダメ」「良いものは良い」と試合について、批判・批評をしなければその競技は大きくならないのではないでしょうか。今回の那須川選手は精一杯、初めてのボクシングルールで、引退したとは言えPFP最強の選手とよく頑張りました。

野球もサッカーも厳しいファンの声があってこそ、あそこまでのビッグイベントになったのではないでしょうか。「メイウェザー凄かった」「日本でメイウェザー見られて良かった」で、終わったらその競技が成長していかないでしょう?

武尊 対 天心戦をいつやるのか。K1大阪大会で武尊選手が天心選手との闘いをにおわす発言をリングでしました。ここで格闘技ファンは盛り上がりました。「天心は前からラブコールを送っていたが、とうとう武尊も答えた」と。この雰囲気のまま、武尊選手との試合に持っていくべきでした。

前の記事に書いたように、日本の格闘技界では、辰吉丈一郎 対 薬師寺保栄、畑山隆則 対 坂本博之、魔裟斗 対 山本KIDなど、人々の記憶に残る戦いが生まれました。この三つの試合に敗者は当然います。しかし、敗者である辰吉、坂本、KID各選手たちの株が下がったことなどありましたか? それどころか記憶に残る選手として評価されています。素晴らしい試合だったと勝者も敗者も称えます。

武尊 対 天心の試合もそうなるでしょう。一戦目がドローでも、あるいはどちらかが負けても再戦すれば良いではないですか。これこそ興行的にだって「美味しい」でしょう。それを楽しみにしていた格闘技ファンたちのワクワクをRIZINは台無しにしました。

お断りしておきますが、堀口恭司選手、浜崎朱加選手たちらの素晴らしい試合もたくさんありました。選手たちをもっとフィーチャーしていく、格闘技の原点に戻る興行が見たいと思っています。(文◎久田将義)