AKB48襲撃男は「無敵の人」か? 人生投げやり犯罪を考える by草下シンヤ
Photo by ラブラドール・レトリバー/AKA48
5月25日、岩手県で行われたAKB48の握手会中にメンバー2名とスタッフ1名が男にノコギリで切りつけられるという事件が起こった。メンバーとスタッフの命に別状はないというが、今後のイベント展開などに大きな影響を及ぼすことは間違いない。殺人未遂容疑で逮捕された無職梅田悟容疑者(24)の素性はまだ伝わってきていないが、インターネット上では「無職」というところに着目し、「また、『無敵の人』のしわざなのではないか?」という憶測が出ている。
「無敵の人」というのは、インターネット掲示板2ちゃんねるの開設者であるひろゆき氏の造語である。氏は2008年にブログで「無敵の人の増加。」という記事を投稿していて、その中で「無敵の人」のことを「無職で社会的信用が皆無な人」「欲望のままに野蛮な行動をする」などと定義している。
つまり、サラリーマンや公務員など社会的地位のある人間が逮捕されれば失業、離婚などのダメージを受けるが、社会的信用のない人はそのようなリスクがなく、気が向いたときに社会を混乱させられるということである。
この「無敵の人」という言葉は、去年末に容疑者が逮捕された「黒子のバスケ」脅迫事件でも注目された。3月13日に行われた同事件の初公判において、渡辺博史被告は「自分は厳罰に処されるべきですし、それを切望」しており、「自分が望む刑罰は死刑です」と述べた後、このような言葉を続けている。
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自分のように人間関係も社会的地位もなく、失うものが何もないから罪を犯すことに心理的抵抗のない人間を「無敵の人」とネットスラングでは表現します。これからの日本社会はこの「無敵の人」が増えこそすれ減りはしません。日本社会はこの「無敵の人」とどう向き合うべきかを真剣に考えるべきです。また「無敵の人」の犯罪者に対する効果的な処罰方法を刑事司法行政は真剣に考えるべきです。
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被告自らの口から「無敵の人」という言葉が出てきたこと、冷静な分析を行っていることなどからこの発言は大きな関心を集めた。社会的に恵まれない立場にある人が起こす犯罪というものは、なにも近年始まったものではない。しかし、いわゆる中間層が減少し、高所得者と低所得者の二極化が指摘される現代において「無敵の人」が犯罪に走りやすい環境は整っていると言えるだろう。ひろゆき氏や渡辺被告が指摘するように今後はこの「無敵の人」にどのように対処していけばいいのかを考えていく必要がある。
しかし、「無敵の人」という言葉で一括りにしたところで、人はそれぞれ異なる事情を持っている。不遇の立場にいる人をすくい上げるセーフティーネットで対処しようとしても、適応外となるケースも多いだろうし、一件一件丁寧に対応するような労力を使うことも難しい。渡辺被告が言うように、「無敵の人」の犯罪者に対する効果的な処罰方法を考えるべきかもしれないが、それもまた人権問題とスレスレのところを進んでいかなければ成立しない道だ。
先日、わたしは1通の手紙のコピーを入手した。
マルハニチロ食品の子会社アクリフーズの冷凍食品に農薬を混入したとして今年1月に逮捕された阿部利樹容疑者の手紙である。氏は現在拘留されている群馬県内の留置場から複数のテレビ局や出版社に手紙を出していたようで、その1通がわたしのもとに回ってきた。
逮捕前の阿部容疑者は会社の待遇に不満を持っていたようだが、仕事があり、家族がいた。またバイクやコスプレといった趣味もあった。いわゆる「無敵の人」とは少し違うようだが、本人の手紙には「離婚もしてしまったし(中略)親兄弟にも見放され面会にも来てもらえない」とあり、出所後、「無敵の人」化してしまう可能性がないとは言い切れない。
わたしが取材をする裏社会には刑務所への入所と出所を繰り返す「懲役太郎」と呼ばれる人たちがいる。出所したところでまともな仕事を見つけることができず、自暴自棄になり、犯罪を重ねてしまう者も少なくない。彼らも裏社会版の「無敵の人」と言うことができるだろう。
阿部容疑者が出所後に「無敵の人」にならないようにするためにはどうするべきか? ここに無敵の人問題を解決する糸口が隠されていそうな気がする。少々長いし、あまり贖罪の意思を感じられない文面であるがゆえに苛立ってしまう人もいそうだが、阿部容疑者の手紙を公開しよう。誤字・脱字の多い文面だったが、それは原文ママとした。
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(マルハニチロ子会社アクリフーズ農薬混入の件)
初めまして去年暮から今年にかけて大変大騒ぎになった群馬大泉の事件です。本当に世間の皆様にはご心配ご迷惑をおかけしてもうし訳ないと心より反省をしている所です。
まさか?お客様のお手元まで農薬がかかってしまった商品がいくなんて夢にも思いませんでした。会社内で1日~2日~3日ラインが止まってと位にしか思ってませんでした。
今冷静になって考えれば私が逮捕され世の中に農薬入り商品が出てしまったのも考えられなくはないと思っています。それだけ私も精神面にもいっぱいいっぱいな面がありました。会社関係者の皆様やお客様には、本当に心からお詫び申します。会社にも被害金額大変な額を出してしまいとても返せる額ではありません。
社会復帰してどこかの田舎で隠れる用にして生きるよりやるだけの事をやってみてはと考えはじめました。
私今毎日日記を付けています。今回事件を犯した会社に入ってからどう言ううっぷんストレスが溜りどう言う事で爆発したのか? マスコミの皆さんが(逃走)と言っていますが私的には家出だったのですがどう言うところで野宿して何を考え幸手警察に保護され今回逮捕され、この留置所の中の事→この先進んで行く拘置所→刑務所 もちろん裁判の事も、家族、家、親兄弟の事など本になればもしかして一発逆転もありえるかもと思いました。
これだけ世間を騒がせた事件なので(阿部ジョージさん)ではないけどある程度被害金額の少しでも返せれば隠れて生きていかなくてもと思ってます。
刑務所を出てから記者会県をやってもいいです。
普通こう言う事をやった人は、田舎へ隠れてひっそりおとなしく人生を過ごすと思いますが、私はやれるだけの事をやってみるかちがあるのではと思っています。
接見禁止も取れているので1度面会に来て頂ければありがたいです。本になり映画となれば最高です。
裁判で記事に全部載る訳ではないので私が実際に書いて本になれば世の中人達は(こう言う事だったんだ!)と興味を持ってくれる人達多いと思いませんか?
私の実名実写真を載せて(ネットにはマラチオン男と呼ばれてました。)(出きれば接見取材の時、取材料を幾らでも良いので頂ければ助かります。)
離婚もしてしまったし元女房もまだ働いてないからお金ないし親兄弟にも見放され面会にも来てもらえないのでやっぱりこの留置所でもこの先の拘置所でも刑務所でも社会復帰してからも先立つ物は、お金なので。
もし接見取材来て頂けるのであれば取材費お願いします。
良い本を出す為頑張りましょう。
阿部利樹
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冒頭で形ばかりの謝罪を口にしているものの、「本を出したい」「一発逆転もありえる」「映画になれば最高」「取材費をくれ」などという主張を見ると、心から反省しているようには思えない。また、本を出したいと言っている割に誤字・脱字が多いのも気になる。もう少し校正しましょう。
しかし、阿部容疑者がやる気になっているのは確かなことである。一発逆転を狙った邪な動機かもしれないが、もし本当に本が出て映画にでもなれば彼は二度と犯罪を犯すような心境にならないかもしれない。
しかし、誰からも声がかからず、本も出ず、映画にもならなかったとすれば、家族にも見放された出所後の阿部容疑者が「無敵の人」化してしまう危険性はある。そのときに事件に巻き込まれるのは他ならぬ自分かもしれないのだ。
というわけで、阿部容疑者に興味のあるマスコミ関係者は接見に行ってあげてください。もっとも、わたしは行きませんが……。
連載:草下シンヤのちょっと裏ネタ
Written by 草下シンヤ
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