「本誌編集長から恐怖のメールが来ました」|青木理・連載『逆張りの思想』第二回
連載2回目で言い訳じみた話になるが、ネットメディアで連載をするのは初めてのことだと前回書いた。だからというか、単発の原稿依頼でもそうだったのだが、ネットメディアにおける〆切の感覚がつかめない。つかめないというか、切迫感が感じられない。
紙のメディアなら、この日の何時までに原稿が届かなければオチます、誌面は白紙になります、などと迫られる。それは大変だと思い、実際の〆切はもうちょっと余裕があるよなぁと駆け引きしつつ、最終的には必死で原稿を書き、”腰だめ”でもなんとか送信する。
でも、ネットメディアは日々刻々更新され、この日までに届かなければアウトという感じが薄い(と僕は思う)。何事もなかったように日々刻々更新され、白紙になることもない(ように僕は思う)。
しかも〈逆張りの思想〉などという小難しい(と僕は思っている)タイトルを冠され、何を書けばいいのやら……とぐずぐず悩んでいるうち、日々は確実に過ぎていく。年末年始の多忙もあった(とこれも言い訳)。本誌編集長の久田将義君からは「月1回、毎月20日が〆切です」と告げられていたから、もはや半月以上が過ぎてしまった計算になる。
はてさて、どうしたものか、と思っていたら新年早々、久田君から一通のメールが届いた。こんなメールである。
〈原稿ですが、12末のを落としてしまいましたので、1月9日くらいで12月の原稿を頂ければ幸いです。1月末は通常の連載を頂きます。
これ、結構重要で、gooとかヤフーとかの約束を僕らが、破っている事になります。
必ず原稿を、頂きに参上致します。
日本だけですよ。契約書も交わさないからライターが契約破る国は。
お願いしますよ!
久田〉(原文まま)
…………。完全に怒ってる。怖い。
本サイトの読者は、ご存知の方もいるだろうが、久田君は実際に怖い。
一緒に飲んでいたり、イベントで一緒になったりした際、ちょっとでも時間があると、久田君はシャドーボクシングを繰り返したり、何かを蹴るような動作に熱中している。『生身の暴力論』という著書もある。
いつもは先輩ヅラしてエラそうな僕だが、久田君はたびたびこんなことを言う。しかもなんだか僕を失笑しながら。
「青木さんって、なんだかんだいっても大学デビューっすよね」
仕事がらみでいえば、こんなシーンを実際に目撃したこともある。一緒にタクシーに乗っていた際のこと。ライターらしき人から携帯電話が鳴ったらしく、
「ちょっとスミマセン」
と言って電話を取った久田君は電話相手に対して、
「いやぁ、素晴らしい原稿をホント、ありがとうございました。編集長からも言われちゃいましたよ~。なんでこんな素晴らしいライターにもっと早く書かせなかったのかってぇ~」
とかなんとか言いながら、ひとしきり会話を交わした後、電話を切るや否や思いっきり舌打ちしたのである。
「ちっ!!」
と。このヘボライターが!! といわんがばかりの久田君は阿修羅の顔だった(と僕は思った)。怖い。
でも、
〈gooとかヤフーとかの約束を僕らが、破っている事になります〉
というメールの一文で、紙のメディアと同様の〆切の大切さも痛感した。
だから次回は必ず〆切を守ろう(と思う)。
〈逆張りの思想〉というタイトルにふさわしい原稿で(と思っている)。
文◎青木理