日本ラグビー史上に残る名ウィング・吉田義人氏の息子 吉田侍人選手16歳がヨーロッパで羽ばたく

プッシュカートハウス対抗で優勝。史上最高新記録達成。セブンスラグビーもハウス対抗で侍人選手の活躍もあって優勝。

運命が交差した日──“二つの代表”を生きた16歳。

英国中部にある名門ラグビー校、ラグビー・スクール(Rugby School)。1567年創立、1823年にはラグビー競技が誕生した“ラグビー発祥の地”として知られるこの寄宿学校は、13歳から18歳までの共学制で、14面のラグビーフィールドを備え、進学実績とスポーツ教育の両立で世界的に高い評価を受けている。

その芝生の上で、ひとりの日本人少年が信じがたい一日を過ごした。16歳、吉田侍人。父は元ラグビー日本代表の吉田義人、母はシンガーソングライターの大西亜里。ラグビーと音楽、二つの血を受け継ぐ彼は、両方の舞台で世界を体験し始めている。

「イギリス人の同級生の意識の高さに驚きました。負けないように頑張りたいと思います」と侍人は語った。

高校日本代表が高校イングランド代表との試合を2日後に控えたある日、日本代表はラグビースクールのグラウンドで練習を行っていた。そこに、偶然の声がかかる。「ウイングで一緒に入らないか?」留学中の侍人は、日本代表の一員ではなく、あくまで“現地の日本人留学生”として参加した。しかし、その日の物語はここで終わらない。

練習後、立場は逆転する。侍人はラグビースクールの“ファーストチーム”の一員として、今度はイギリス側に加わり、日本代表と合同練習を行ったのだ。
同じ日に、日本代表としてフィールドに立ち、次の瞬間には対峙する側に回る──。世界でも極めて稀な経験だ。しかも、日本代表の選手たちは、侍人がファーストチームの一員であることを知らなかった。偶然の声かけが生んだ“交差”は、まさに運命のいたずらだった。

2025年、日本ラグビーフットボール協会は100周年を迎える節目の年。その記念すべき年に、侍人はラグビー発祥の地に立つ。1823年、ウィリアム・ウェッブ・エリスがボールを抱えて走った瞬間から始まったスポーツの“原点”。その歴史ある学校で、日本人として在籍していること自体が、すでにドラマである。

ラグビースクールは英国名門「ザ・ナイン」の一角で、オックスフォード大学やケンブリッジ大学への進学者を多数輩出する難関校。在籍約850名の中で、日本人はわずか数名。世界中の受験者が幼少期から準備する中、日本の教育を受けてきた侍人の合格は異例だった。その評価は競技力だけではない。
ラグビーU15東京代表、米国IMG野球U15最優秀守備選手賞、作文コンクール受賞、作曲・ピアノ演奏・美術作品──競技と芸術、両極を横断する“総合力”が認められたのだ。

そして歴史を塗り替える。伝統あるラグビー部では、10軍以上に分かれる巨大組織の中で、日本人初、かつ16歳最年少でファーストチーム入り。ウイングとしてスピードNo.1の存在感を示している。寮対抗スポーツイベントではシェリフハウスを優勝に導き、プッシュカート競技では大会新記録を樹立。セブンズでも勝利に貢献するなど、異国の地で結果を出し続けている。

しかし、侍人の物語はラグビーだけではない。3月5日、学内コンサートではビリー・ジョエルの「オネスティ」を弾き語りで披露。完成度はまだ完璧ではないが、“挑戦する姿”が観客の心を動かした。

さらに、世界への扉も開き始めている。ロンドンで開催されるロスリンパーク・ナショナルスクールセブンズ、世界最大規模のユース大会に、ラグビースクール代表14名の一人として選出された。3月26日・27日、その舞台で若き才能は世界と直接ぶつかる。

この遠征にはもう一つの“縁”がある。初代NATO大使、伊澤修はかつてのラガーマン。ベルギー・ブリュッセルから現地に駆けつけ、侍人の存在がラグビーの聖地での夢を現実にした。

一日にして二つのチームに迎え入れられた経験は、単なる幸運ではない。異文化で築いた信頼、競技で示した価値、人としての魅力──そのすべてが重なったとき、奇跡は現実になる。

「イギリスの仲間は皆んなで集まって、誰1人携帯電話を使用する子はいなくて、全力で体を使って遊ぶか、席に座ったら、必ずテーマを決めてディスカッションする例えば、10年後の自分はどうなっていたいか1人1人話すコミュニケーション能力の高さに圧倒され、ましてや英語でついていくのは大変だが、そのおかげで英語力も高まり、1日1日が急速に成長出来ていると自分自身でこんなに実感出来たのは生まれて初めて。イギリスで生活することで、日本という国の良さも再認識でした。
やはり何といっても日本食の美味しさは最高だ」と吉田侍人は述べた。
ラグビー発祥の地で生きる16歳、吉田侍人。その物語は、まだ序章に過ぎない。(文・写真提供@霜月潤一郎)