ネットフリックス『地獄に落ちるわよ』 「ナチュラル・ボーン・アウトロー」細木数子という生き方

ネットフリックスが「昭和」に力を入れています。AV監督村西とおる氏を描いた「全裸監督」から始まりタレントはるな愛氏の半生を辿った「This is I」。それなりに面白いのですが、「昭和モノ」が続くと少し食傷気味になるのも致し方ないでしょう。その流れで平成を席巻した希代の占い師細木数子氏の人生の表裏を描いた「地獄に落ちるわよ」もその、ネットフリックス路線の一環です。
細木数子を見事に描いたノンフィクションと言えば溝口敦氏の「魔女の履歴書」があり、これを読めば細木数子像が伝わると思います。
この本を読んだうえでネットフリックス「地獄に落ちるわよ」を視聴した感想を述べたいと思います。まず、戸田恵梨香、伊藤沙莉を始め俳優陣の技は拍手モノでした。
ドラマ・映画を製作する上で重要である「演技」はクリアしましたが僕が注視していたのは、
・細木数子と二率会小金井一家堀尾総長との蜜月
・10代での渋谷・円山町での過ごし方
・島倉千代子の使い捨て
この「事実」をどう描くのか、でした。まず島倉千代子への扱いの酷さはほぼ周知の事実なので、そのまま描かれていました。
小金井一家堀尾総長との関係も江戸川一家堀田総長という名称で登場し、まあクリアとしておきます。当時、歌舞伎町を根城としていた小金井一家でしたが現在のヤクザに「細木数子の内縁の夫は堀尾総長ですよね」と聞いたら、意外そうな顔をして「え。そうなんですか」と言っていたのでヤクザの中でも「現代ヤクザ」にはその関係性は知られてはないらしいです。
戦後の焼け野原からの描写も平均点くらいで描かれていました。問題は、彼女の実家の正体です。円山町は花街(かがいと読む)、あるいは三業地として知られていました。戦後の女性は生きるのに必死でしたから体を張ってお金を稼いでいた訳でしたが、細木数子の実家が女郎屋ではなかったのか、という「噂の正体」。ドラマではおでん屋で、客と待ち合わせていたらしき遊女が連れ出していくシーンが見られますが、これだと普通のおでん屋で、ウィキペディアでもそう表現されていました。
ただ、僕があのあたりを取材で回っていた頃「青線ではないか」と思われる地帯に出くわしたのを思い出しました。現在はその場所は再開発でマンションになっていますが、「喫茶ライオン」の裏側。千代田稲荷の並びに4、5軒、古びた飲み屋街があったのです。青線とは非合法の売春地帯です。その反対語として赤線があります。赤線は合法の売春地帯です。なので、警察は赤線の場所は把握しており、地図で赤線は赤い鉛筆で囲っていました。全国の赤線を網羅した本も古本屋に行けば買うことができました。
翻って青線は「この飲み屋街は青線だったのか」と、類推するのが難しい。例えば池袋にあった「人生横丁」という飲み屋街に行った時、その店のママに青線だったのかを問うたら曖昧な返答をされました。それは当たり前で非合法活動を大っぴらに言う人はいません。既に名所である新宿・歌舞伎町のゴールデン街が青線だったということは、知られていますが観光地化したあの街は、新しい店主が経営しているケースが多く、隠す必要もないのでしょう。
円山町の細木数子の実家が青線だった可能性は大きいと見ているのですが、「魔女の履歴書」では座布団売春と表現されています。これを風俗用語に略すと「ちょんの間」。システムは大阪の飛田新地などが有名です。円山町には青線の名残りが、前述したように1990年代後半まで残っていたと思われます。
余談ですが、この店のママと雑談していたら東電OL事件の被害者の女性もこの店の常連だったということでした。
性風俗には当然、ケツ持ちのヤクザがついていると考えるのが普通で、もし細木数子が青線と関わっていたら当時から裏社会とのつながりがあったとされてもおかしくありません。小金井一家総長の内縁の妻になるよりも、裏社会とのつながりがあった可能性があります。戦後を生き抜いてきた女性テレビタレントはどこかしらアウトローの影がつきまといます。細木数子然り、デヴィ夫人然り、野村サッチー然り。ただ細木数子ほど裏社会に染まっている様を隠しきれなかった女性テレビタレントも珍しいでしょう。
男性俳優でも名前は出しませんが、ある組織に面倒を見てもらい、時には刺青がびっしり入っている人がいる事も知っています。ある意味、戦後を生き抜いてきたテレビタレント・俳優たちの性なのかも知れません。「魔女の履歴書」を読んだり、実際ヤクザや青線跡を取材したりした身としては「地獄におちるわよ」はモヤモヤするところは正直ありました。が、それを消して最終話まで見せたのは俳優陣の頑張りではなかったのではないでしょうか。
※細木数子を一躍メジャー化した、あるいは「先生」と呼ばれるようになったのは言わずと知れた「六星占術」の大ヒットからでしょう。ドラマでは描かれていませんでしたが、版元はKKベストセラーズ。「ザ・ベスト」やタレント本で伸ばしていきました。創立者は伝説的編集者の岩瀬順三社長です。天才的なセンスで、一代でKKベストセラーズをメジャーにし、その後二代目社長の元、細木数子が「六星占術」を出版。大ベストセラーになります。このあたりの描写がかけていたのは残念でした。(文@久田将義)
