元サザン・大森隆志「大森茶」発売へ 川根茶アンバサダー誕生の舞台となった農家民宿 店主にも壮大な〝移住ドラマ〟

大森隆志と川根茶による「楽茶 大森茶」の船出を祝うキックオフパーティーの会場となった

元サザンオールスターズのギタリスト・大森隆志と静岡県川根本町の銘茶「川根茶」がタッグを組んだ「楽茶 大森茶」が、10月17日からリリースされた。
音楽と日本茶――。一見、異色にも映るコラボレーションが動き出す中、その〝始まりの日〟となった川根本町では、いくつもの不思議な縁が重なっていた。
東京・御茶ノ水で「楽茶」を展開するフジギターズによる川根本町でのキックオフパーティー。さらに同町出身のタレント・おざわまりなの「川根茶アンバサダー」就任。
大森と川根茶、おざわと故郷――。音楽、芸能、地域が交差した記念すべき一日の舞台となったのが、川根本町の農家民宿「農作日和 たお酉(ゆう)」だった。
実は、この場所にもまた、一人の女性が人生を大きく変えてたどり着いた〝移住ドラマ〟がある。
同民宿を営む店主、大原芽久実さんだ。
人生の転機は、思いがけないところからやってくる。
大原さんが川根本町と出会うきっかけの一つとなったのは、バイクだった。
自身もライダーで、現在は250ccのバイクに乗る。最初の愛車はVツインマグナ。その後はカワサキのTRに乗った。
山あいを縫うように続く道、美しい自然、走るたびに表情を変える風景――。ライダー仲間から川根本町の存在を教えられ、次第にこの土地との距離が縮まっていった。
最初はツーリングで訪れる町にすぎなかった。
ところが、その川根がやがて大原さんの人生そのものを変えることになる。
「1人になってから、田畑をずっとやりたかったんです」
大原さんはそう振り返る。
母親が秋田県出身だったこともあり、幼いころから田舎で野菜を育てるような暮らしに憧れていたという。
人生を再スタートする場所を求め、移住先として四国などにも目を向けた。
全国各地へ視線を向けたからこそ、逆に気づいた。
「あ、川根があるって」
答えは、意外にも近くにあった。
そして大原さんは、本当に川根本町へ移住する。
さまざまな土地を検討した末、なぜ川根だったのか。
その理由を尋ねると、返ってきた言葉は実にシンプルだった。
「やっぱ川根に魅力がありすぎて」
観光客として遊びに来るのではない。実際に生活する場所として川根を選んだ移住者だからこそ、重みを持つ言葉だ。
現在の農家民宿との出会いもまた、人との縁が運んできた。
川根本町へ移住した大原さんは、周囲に「農家民宿をやりたい」という夢を話し続けていた。
すると、ある時「いいところがあるよ」と現在の建物を紹介された。
夢を胸の中にしまっておくのではなく、言葉にして人に伝える。その一つ一つが縁を呼び込み、現在の「農作日和 たお酉」へとつながっていった。
大原さんの経歴も一筋縄ではない。
飲食、アパレル販売、郵便局、介護職など、さまざまな仕事を経験。川根本町ではゲストハウスの管理にも携わった。
飲食の現場で培ってきた経験は、現在の宿で提供する料理にも生かされている。
かねて胸にあったのが、「自分で作って、自分でお迎えする」場所を持ちたいという思いだった。
ただ料理を提供する店ではない。
自ら客を迎え、自ら料理を作り、食卓を囲み、川根本町で過ごす時間そのものを味わってもらう。
長年抱いてきた夢の〝進化形〟が、この農家民宿だった。
しかも、相手は宿泊客だけではない。
予約の入っていない日には、地元住民向けのランチや夜営業も行う。
宣伝方法も実に地域密着型だ。
スーパーに「ランチと夜やっています」と書いたチラシを張ってもらう。すると、それを見た地元住民から電話が入る。
インスタグラムも活用しているが、店を支えているのは口コミ、そして地域で築いてきた人と人とのつながりだ。
料理にも〝川根で食べる意味〟を込める。
食材は可能な限り地元農家から仕入れ、ワサビ、アマゴ、ジビエなど川根本町ならではの味を提供。野菜にも周辺地域のものを取り入れている。
都会から地方へ移住して、夢だった宿を開いて、あっという間に大成功――。
そんな都合のいい物語ではない。
田んぼを借りる。
宿を始める。
料理を作る。
スーパーにチラシを張ってもらう。
電話が鳴れば、一人ひとりのお客を迎える。
大原さんは地域の人たちとの縁を一つずつ積み重ねながら、川根本町に自分の居場所を作ってきた。
そして、その場所が今度は、大森隆志と川根茶による「楽茶 大森茶」の船出を祝うキックオフパーティーの会場となった。
さらに、川根本町出身のおざわまりなが「川根茶アンバサダー」として新たな一歩を踏み出す節目を見届ける場所にもなった。
バイクで走った先に出会った町。
その町に移住した一人の女性が宿を開き、今では川根本町から新しい文化を発信しようとする人々を〝迎える側〟になっている。
そんな「農作日和 たお酉」は、10月19日にオープン1周年を迎えた。
大原さんは地域への感謝を込め、「秋祭り」のような形で節目を祝いたいという。
10月17日には大森の「楽茶 大森茶」がリリースされ、その2日後には「たお酉」が1周年。
音楽とお茶。
故郷から新たな一歩を踏み出したタレント。
バイクをきっかけに移住してきた店主。
それぞれ別々だった人生の線が、川根本町という場所で交わった。
「やっぱ川根に魅力がありすぎて」
大原さんが口にしたその一言。
大森やおざわらを迎え、次々と新しい物語が生まれていく――。その言葉こそ、この町が持つ不思議な〝引力〟を最も端的に表しているのかもしれない。(文・写真提供@霜月潤一郎)