猪瀬知事、辞任表明も「五千万円問題」は明らかにしないアマチュア精神 by久田将義

 わかりやすい人だな、という印象だけが残った猪瀬東京都知事の辞任会見である。

 質問が一般的なものになると、「オリンピックを停滞させない為にも」というフレーズを何度も使う。しかし、「徳洲会からの五千万円借り入れ問題」となると、「アマチュアだったから」と、言葉数が少なくなる。そして「十分説明した」という事でコメントを短く打ち切っていたのが特徴的だった。まとめると猪瀬都知事の言っている事は二つに集約される。

・オリンピックの今後は次の都知事になる人に頑張って欲しい。

・徳州会借入問題はアマュアだったと反省している。

 この答えがただループするだけの辞任会見だった。猪瀬都知事の五千万円発覚から辞任については、水面下で色々な情報が錯綜している。曰く「ハメられた」「オリンピック招致までの都知事だったので用済となっただけ」といったものだ。裏社会からも、きな臭い話がちらほら入ってきているが、その辺りは取材を進めてから報告したい。

 五千万円問題が発覚したのは政治家として百歩、いや、一万歩譲ろうとしよう。しかし、その後があまりにお粗末だった。

 不祥事やスキャンダルの後の対応に政治家としての資質が求められるものだ。それが「偽借用書疑惑」「五千万円の札束が入らない鞄問題」などと、弁明すればするほどボロが出てしまった。これは猪瀬都知事にブレーンがいないのでは、と思ってしまうほど杜撰だった。弁護士にも相談しているだろうが、余りにも子供じみた言い訳に終始した。テレビを見ていた人も呆れるしかなかったのではないだろうか。

 こういった一つ一つの所作で、政治家はその実力を判断されてしまうものである。人柄がが悪かろうが、政策で良いパフォーマンスをしてくれればと多くの都民は思っていたはずだ。なにせ人柄で言えば元々、傲慢な態度が鼻につく人物である。それはツイッターでの数々の発言を見てもわかる。『ミカドの肖像』で大宅賞を受賞し、それを引っ下げて『朝まで生テレビ』に登場したのが約25年前。それをきっかけとしてメディア露出を広げ、いつの間にか副知事に就任した印象で、人間的な魅力を発揮した場面は一度も記憶になかった。

 辞任のきっかけとなった「五千万円問題」に話を戻せば、猪瀬氏が言う「今後の生活が不安」なのは、猪瀬氏に投票した都民も同じ心境だろう。いや、都民の方がより切実なはずだ。最後まで疑惑に対して説明責任を果たさなかった猪瀬氏は政治家としてアマチュアだったというより、大人として、一人の人間としてアマチュアだったのではないかと思う。

Written by 久田将義(日刊ナックルズ編集長)

Photo by 勝ち抜く力/猪瀬直樹

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