都知事選で語られる「脱原発」に足りないものとは? 再選直後の南相馬・桜井市長に聞く

南相馬市小高区。津波で街が飲み込まれたが、
原発事故で立ち入り禁止となり、まだ復興が進んでいない。

 猪瀬直樹・前東京都知事の辞任に伴う都知事選挙(2月9日投票)は16人が立候補している。これといった争点が見当たらないが、原発問題を取材し続けてきたルポライターの鎌田慧さんらが設立した「脱原発都知事を実現する会」が、脱原発を政策の最優先に掲げる元総理・細川護煕氏の支援に回り、「脱原発」を争点とする機運も出て来ている。福島県南相馬市でも「脱原発」を訴える現職市長が当選した。これは、「脱原発」候補者たちに追い風となるのだろうか。

 都知事選は23日に告示された。22日現在の有権者は1082万567人。立候補したのは16人。届け出順に、ひめじけんじ氏(61、無所属)、宇都宮健児氏(67、無所属)、ドクター・中松氏(85、無所属)、田母神俊雄氏(65、無所属)、鈴木達夫氏(73、無所属)、中川智晴氏(55、無所属)、舛添要一氏(65、無所属)、細川護煕氏(76、無所属)、マック赤坂氏(65、スマイル党)、家入一真氏(35、無所属)、内藤久遠氏(57、無所属)氏、金子博氏(84、無所属)、五十嵐政一氏(82、無所属)、酒向英一氏(64、無所属)、松山親憲氏(72、無所属)、根上隆氏(64、無所属)。

 告示前に、「脱原発」を主張している小泉純一郎・元総理と対談をした細川氏が脱原発をメインの政策に掲げて立候補を表明。「元総理連合」とも言われた。「脱原発」は宇都宮氏の公約でもあり、市民団体「脱原発都知事を実現する会」は候補の一本化に向けて調整をしてきた。しかし2候補の対談は実現せず、一本化を断念した。そのため、会としては、「脱原発を最優先に掲げている」として、細川氏の支援に回った。

 一方、東日本大震災後、福島県内の現職首長が次々と落選してきた。その中で、浜通りの相馬市長と南相馬市長は現職が当選し、現職が落選する流れに歯止めがかかった。福島県は震災後の2011年7月、「脱原発」を理念に掲げた「復興ビジョン」をまとめた。そのため、首長選挙で「脱原発」を掲げても一番の争点にはなりにくい。

 では、南相馬市の桜井勝延市長の再選の意味は何だったのだろうか。3月発売予定の震災関連本の取材のためにインタビューを申し入れた。選挙翌日の20日、市役所内で桜井氏が応じた。桜井市長は震災と原発事故後の対応には自負がある。

「(原発事故の際)国からも県からも情報がなく、棄民扱いされた中で(震災後)3年間やってきた。霞ヶ関からはクレーマー扱いされたこともある。しかし、しつこく通い続けることで霞ヶ関にも私の姿勢が浸透してきた。これで足りないなら何をどこまでやればいいのか?というくらいやってきたつもりだ」

 東京電力・福島第一原発から20キロ圏内のため立ち入り禁止となった小高区、20~30キロ圏内となり緊急時避難準備区域となった原町区、区域外となった鹿島区。南相馬市は三分した。そのため、全国に避難した人、同市内に避難した人など様々だ。震災前に約7万人いた人口は、一時、1万5千人ほどにまで減少した。そんな中でも市の機能は休まなかった。現在市内居住者が5万人台に回復したと言われているが、7千人が転出、1万人以上がまだ避難生活を続けている。

「死の街から人が通う街になった」

 そう桜井市長は言う。県と国という二重行政の中で被災自治体は翻弄された3年間だった。桜井市長は震災後、You tubeで現状を訴え、アメリカのTIME誌2011年版で「世界で最も影響力がある100人」にも選ばれた。桜井市長は「原発に頼らない街づくり、新しい南相馬を作ろう」とも話し、「脱原発」とその後の街づくりについても言及した。

 ただし、13年には、東北電力の浪江・小高原発建設計画が中止になった。もはや「脱原発」は規定路線だ。対立候補が当選していたとしてもその方向性は揺るがない。では最も当選に影響があったのは何か。インタビューで桜井市長が何度も使った言葉は「現場感覚」だった。「現場感覚が最優先でなければならない」と話していた。震災や原発事故対応、復興について市民の目線で考えてきたことの評価が問われたのだろう。

 都知事選に話を戻そう。たしかに、「脱原発」は重要な争点の一つだ。しかし、現実問題として、「脱原発」候補者は一本化できなかった。それにより、争点ずらしと言われたとしても、他の政策も見なければならなくなった。こうした現状を受けてか、ドワンゴのネット世論調査では、「脱原発」が都知事選の争点と思うかで、「思わない」が56.2%で、「思う」の21.9%を大きく引き離した(東京都有権者分のみ)。「脱原発」だけで乗れる人もいるが、乗れない人もいる。桜井市長流に言えば、最も「現場感覚」がある候補者は誰かということになるのかもしれない。

Written Photo by 渋井哲也

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