【未解決事件の闇5】編集者失踪事件「MLに北朝鮮へ渡った証拠がある」
特集ルポ:未解決事件の闇5 ~伊勢・女性編集者失踪事件
「北朝鮮へ行ったのは本当か」
辻出紀子さんは失踪前、とあるマニアックなメーリングリストに入っていた。メーリングリストというのは、いま流行のSNSをWEBではなく、メールにて交流をおこなうシステムのことだ。90年代後半から00年代前半にかけて隆盛した。
彼女が入っていたのはTML(トラベル・メーリング・リスト)というもの。先に入っていた僕が辻出さんを誘ったのである。
特定失踪者問題調査会の関係者M氏はその「メーリングリストに確たる証拠がある」と胸を張る。本当だろうか。僕はTMLの管理人に頼んで、メーリングリストのログを入手した。
その中から、彼女の発言やそれに対してのリアクションのうち北朝鮮関係のものだけをピックアップしてみたい。
ちなみに彼女はMLに2~3日に1回の割合で投稿した(ちなみに同時期の投稿総数は1206通、毎日約20通のメールが個々のメアドに届いていた)。初めて投稿した1998年9月18日から失踪する直前の11月19日までに彼女が投稿したメールは合計24通にのぼっている。そのうち北朝鮮に関係するのは、
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――私も北挑戦、もとい北朝鮮、行きたい! 行きたい! インタビューするなら、やっぱ20世紀の負の遺産ともいえる? 金正日しかないでしょう! あの髪はカツラなのかも、ぜひ聞いてみて下さいまし。
――慶州の世界文化エキスポでの北朝鮮のパビリオンってどんなのでした? 興味あります。詳しく教えてください。北朝鮮の生活を再現したパビリオンなんでしょうか。
――平壌オフ。前代未聞の企画だ。エベレスト山腹でワイン持ってバーベキューするようなものですね。でも、行きた~い! 2000年を平壌で迎えるというのは如何?
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の3つである。ユーモアを交えつつ、はつらつと発言している様子がわかる。まじめに行き方を聞いているとはとても思えない。これに対し、回りは、
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――これは面白い! よど号の赤城さんと一緒に迎える新年というのもいいのでは?
――平成版よど号である〇〇エアーハイジャックツアー、金日成総合大学体験入学ツアー、ミサイル攻撃への報復・ジョンイル君を囲んでケリ入れようツアー。これに死線を越えて帰国しようツアーを加えて、一セットのツアーとするのはどうでしょう?
――死線とはもちろん38度線のことです。韓国でも日本でも逃亡生活を強いられるというオプションが付きます。一人でも逃げ延びたらツアーは成功ということになるのでしょう。 モデルルート:成田(飛行機)~北京(飛行機)~ピョンヤン(到着後、無期限フリー)
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とふざけた書き込みを続けているだけで、北朝鮮へ行く船の存在についてはまったく示していない。
しかし、それでもM氏は「私はこれを見て、辻出さんが北にいると確信したんです。明確な証拠がないからといって、『行っていない』ことをどうやって証明しますか」と言って、北朝鮮にいると決めつけたままだった。
そもそも中朝関係者筋の話というのは本当なのだろうか。怪しい。
※つづく
Written&Photo by 西牟田靖
メーリングリスト投稿の真意は?