【未解決事件の闇11】女性編集者失踪・容疑者Xの知られざる真実


特集ルポ:未解決事件の闇11~伊勢・女性編集者失踪事件

 筆者が取材を進めていくうちに、どのような捜査が初期段階で行われたのか、次第に分かってきた。これまでの報道では知らされていない事実を発掘することで、事件の真相に迫ってみたい。

 1998年11月24日の深夜、Xは辻出さんに会っている。彼は24日から25日にかけて、どのように行動したのか、そしてそもそもなぜ辻出さんに会おうとしたのか。

 これまでの報道でXの証言は「損保会社の駐車場で落ち合い、自分の車に乗せて1~2時間話をした。その後、別れてからは彼女の行動は知らない」という風に紹介されていた。今回、筆者はよりオリジナルに近い供述の内容に触れることに成功した。今まで流布されてきた供述と、原文により近い供述を比較すると、その印象はまったく違っていることがわかった。筆者は衝撃を受け、そしてあることに気がついた。世間に流布している証言は重要な言葉をあえて削ぎ落としたバージョンであるということに。

 1999年1月26日から2月3日にかけてXは伊勢警察署で任意の取り調べを受けている。Xは当初完全黙秘の状態であったが、三日目から四日目にかけて、事件当日のことを次のように話している。

「夏にですね、辻出さんに失礼な電話をしてしまったんです。そのことを謝りたいと、その日の夕方に電話したんです。『夜10時頃に仕事が終わる』ということでしたので、午後9時ごろに伊勢に着き、午後10時ごろに電話を入れたんです。すると『11時ごろに終わるので待っていて欲しい』と。時間つぶしをして大東京火災の駐車場で待っていたところ、11時すぎに、辻出さんから電話がかかって来ました。私は場所を教えて駐車場で落ち合いました」

 ここでいう夏の電話とは「辻出さんにもう二度と電話しないように伝えて欲しい」というXから伊勢文化舎への電話である。Xには別居している妻とは別に、名古屋在住の恋人A子がいた。XがA子と自宅で過ごしているときに、辻出さんから電話がかかってきたことがあった。そのとき、XはA子に疑われたので、上記のように辻出さんに電話をかけたというのだ。

 では、夏の出来事をなぜ11月になって謝ろうと思ったのか。不自然ではないか。これに関して、男は次のように話している。

「A子とケンカをしまして、11月19日からA子が名古屋の家に戻ってしまったんです。寂しくなったので、女遊びでもしようかと思い、辻出さんに連絡しました。夏の電話のことで謝るという口実で会おうと思ったんです。セックスができると良いな、と思ってね」

 行為に及ぶ為の口実として、Xは辻出さんに謝罪話を持ち出したのだ。そしてXは辻出さんに会い、目的を果たしたことを供述で認めている。

「辻出さんとは車内で話をした後、セックスをして別れました。一緒にいたのは1~2時間ぐらいで、後のことは知りません」 

 学生時代の娘の素行について、辻出紀子さんの母親である美千代さんは「なんで毎回、紹介する男の子が違うのか」と不満そうに語ったことがあり、そのことから紀子さんは異性との交際が派手だったことが見て取れる。加えて、信用した人間に対しては性別関係なく誠意をもって付き合う彼女の性格が異性に勘違いさせる傾向、つまり惚れられやすい傾向があったことも事実である。

 だからといって、紀子さんがXと合意の上で行為に及んだと判断するのは早計である。誘い出す口実がなければ会うことのできないような、付き合いの浅い人物といきなり合意のもとに行為におよぶほど、彼女は軽くない。たとえ彼女がXのことを一目置いていたとしてもだ。何より辻出さんには筆者に辻出さんを紹介した筆者の友人という、将来を誓い合った彼氏がそのときすでにいたのだ。合意の上で不貞を働くというのはあまりに不自然だ。

Written Photo by 西牟田靖

僕の見た「大日本帝国」 (角川ソフィア文庫)

辻出さんはどこへ?