高校生の自殺で見舞金の支払い拒否、遺族は最高裁へ上告

 2009年5月、首都圏の私立高校3年の男子生徒が校内の4階から飛び降り自殺した。独立行政法人日本スポーツ振興センターは「高校生の場合、故意による死亡には支払われない」規定があるとして、死亡見舞金の支払いを拒否していた。遺族は11年5月に提訴、「自殺は故意によるものではない」として、同センターに支払いを求めていた。

 14年5月、東京地裁では敗訴。原告は控訴していた。そして12月10日、東京高裁は控訴を棄却した。高校生の自殺は「故意による死亡」で、「死亡見舞金」の対象にならないのか? 事実認定に争いはほぼない。高校3年生だった生徒(故人)は09年5月29日、通っていた首都圏の私立高校の校舎4階廊下の窓から飛び降り自殺した。学校の定期試験の最中の出来事だった。

 遺族は09年7月、同センターに対して、死亡見舞金の支給を求めた。しかし、同センターは11月、不支給の通知を出した。理由としては、学校管理下にあるものの、高校生の場合、故意による死亡では、死亡見舞金が支給されないという規定に該当するとしていた。

 独立行政法人日本スポーツ振興センター施行令」によると、「センターは、高等学校(中等教育学校の後期課程及び特別支援学校の高等部を含む)及び高等専門学校の災害共済給付については、災害共済給付 契約に係る生徒又は学生が自己の故意の犯罪行為により、又は故意に、負傷し、疾病にかかり、又は死亡したときは、当該負傷、疾病若しくは死亡又は当該負傷 をし、若しくは疾病にかかったことによる障害若しくは死亡に係る災害共済給付を行わない」とある。

 争点は生徒(故人)の自殺が「故意による」かどうか。遺族は「例えば、精神障害によって正常な認識、行為選択能力が著しく阻害され、または自殺行為を思いとどまらせる精神的な抑止力が著しく阻害されている状態で自殺が行われる場合は、故意であるとは言えない」と主張していた。

 一方同センターは、「生徒には通院歴も既往歴もない」「高等学校の生徒ともなれば当然一人前と考えられることを前提とした立法政策の問題であるから、かかる給付制限は合理的である」と反論していた。

 東京地裁・清水響裁判長は、同センターが、高校生の「故意または重大な過失などの場合災害共済級を行わない」としている件について、「刑事責任能力が14歳とされていること、不法行為における未成年の責任能力がおおむね12歳程度であると解されていること、16歳に達すると、注意能力が成人相当に備わっているとの考え」にもとづいているとして、違法性はないとしていた。

 また、生徒(故人)の自殺は、外部からの力や生徒の不注意などにより落下したわけではなく、「転落行為の認識及びその結果としての死亡に対する認容があった」と推測した。さらに原告が主張する急性ストレス障害の症状が出ていなかったとして、「故意による死亡」と認定し、遺族側の主張を退けていた。

 その後、遺族側は判決不服として控訴。10日、東京高裁の控訴審でも公訴棄却の判決が出された。この判決では、精神科医の意見書について、採用しなかった。これまでの過労死・過労自殺裁判では、原告側と被告側の医学的な所見の主張をぶつけ合い、少しでも可能性がある側の意見書を採用する。今回、同センターは、医師の意見書を提出していない。

 菅野博之裁判長は、過労死・過労自殺における「故意」かどうかと、同センターの災害共済給付における「故意」は違うとした上で、「本件生徒を過去に自ら診断した経験や診察した医師の記録等を踏まえた判断」ではなく、一般論と可能性にもとづく推論でしかないと一蹴した。この考えでは、過労死・過労自殺の方法を否定することになる。

 では通院歴がなければ、同センターは死亡見舞金を支給しないかといえば、そうでもない。過去には通院歴がなくても支給されたケースがあり、基準が曖昧だ。

 遺族は「センターの基準は合理性を欠いている。小・中学生と高校生がどう違うのか、判決を読んでも納得できない。子どもの命を守るという教育以前の問題だ」「どうして自殺に至ったのかという直前の心理を推測する努力をしないで、機械的に基準を当てはめただけ」と話し、判決不服として、最高裁に上告する意向を示している。

Written by 渋井哲也

Photo by Photomiqs

自殺

故意による死亡とは。