【未解決事件の闇13】女性編集者失踪・なぜ容疑者Xは無罪になったのか

 ではなぜXは無罪となったのか。1999年10月5日、Xに対して下された無罪判決の理由、その要旨は次の通りである。

「前記写真、E子の日記帳及びテープレコーダーといった客観的証拠などからすれば、E子の供述は信用できない。E子の証言には、その内容自体に疑問がある部分があるほか、写真や手帳に照らせば、犯行日時とされる一九九七年一二月一六日夕方から一七日早朝にかけて働きに出掛けて収入を得ていた可能性があり、またテープの内容によれば、監禁され、両手を縛られていたような緊張関係は窺えない。E子の証言はたやすく信用できない」

 無罪判決について、起訴した元検事は次のように振り返った。

「あの事件は無理筋の事件です。起訴しても有罪に持っていける可能性は薄かった。あの事件単独なら起訴することはありません。なぜならXとあの女性は付き合っていましたし、被害者の部屋で行われましたから。それでも別件で行こうと判断したのは、辻出さんの事件の捜査が、ゆきづまっていたからです。任意ではもう話さないし物証もない。あとね被害者の証言がしっかりしてたんです。だからいけると。何らかの形で有罪に持っていければ、身柄を確保し続けられる。そうなれば自白に持っていけるかもしれない」

 そうした一縷の望みに託したのだ。そもそもが無理筋なので控訴はできなかったということらしい。素人感情からすると、Xのほうが発言が変遷している。なのにこれが無理筋というのが理解できない。もし一年早くE子がXに被害届を出していれば物的な証拠はなくならなかったはずだし、Xにはさらに重い罪も加わった上で有罪となった可能性が高い。半年という強姦の告訴期限は翌2000年には撤廃されたから、逆にあと一年、被害届を遅らせていれば罪状はかなり替わっていたのかもしれないし、そもそも辻出さんは失踪しなかった可能性が高い。それだけに悔やまれる。

 E子がXの件ですぐに被害を訴え出なかったのには、いくつか理由がある。強姦で届けられることを彼女も知っていた。しかし、それについては他人に知られたくなかったし、付き合っていた人とのことで届け出ても「男女のもめ事」と言われておしまいだと、ハナからE子は決めつけていたというのだ。

Written Photo by 西牟田靖

誰も国境を知らない 揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅 (朝日文庫)

辻出さんはどこへ?