【未解決事件の闇15】女性編集者失踪・彼女が消えた現場はいま…

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特集ルポ:未解決事件の闇15~伊勢・女性編集者失踪事件

 辻出さんが働いていた伊勢文化舎から現場となった損害保険会社駐車場に向かう。伊勢文化舎のあたりですでに伊勢市の外れという感じだったが、そこからさらに東へ1キロあまり。街灯はなくなり、緑が多くなる。3分ほどで現場にたどり着いた。。旧保険会社はカーショップになっていて、当時の面影はまったく残っていなかった。しかし夜の様子は特に変わらないようだ。カーショップの店員は言う。

「街灯がないので夜は真っ暗です。バスは昼こそ通りますが、夜になると便はありません。人通りもほとんどなくなります。隣は食堂なんですがここは午後10時ごろに店じまいをします」

 辻出さんがXと会ったときは、隣の食堂はすでに店じまいをした後の午後11時すぎのことであった。人けのないこの場所で、目撃者がいないのは当然のことである。犯人が目撃されないという確信を持って、この場所を選んだのだとしたら、かなり巧妙である。実のところ、彼女はどこに行ったのだろうか。

 事件当日の深夜から朝にかけてのXの動きを調べると、尋常ではないことが確認できた。Xは明らかに恐慌を来している。というのも、辻出さんに会った午後11時すぎより後、Xは彼女であるA子と、深夜にもかかわらず頻繁に話しているのだ。

・午前2時半ごろ、Xの携帯→A子の携帯 7分あまり

・午前4時59分から5時33分 Xの携帯←→A子の携帯 交互に合計8回

・午前5時34分から Xの自宅電話→A子の携帯 5分あまり

・午前5時50分から Xの自宅電話→A子の携帯 11分あまり

・午前6時30分すぎから Xの自宅電話→友人Nの携帯 3分あまり

 筆者が友人ゆえ辻出さんのことをひいき目にみてしまっていることは否めない。そこで筆者は通話記録を参考に主観を廃し、Xと辻出さんの間に起こったことを考えてみた。

 まずは、伊勢の現場から県南部のXの自宅までの道のりについて考えてみる。98年当時、今では県南部へと延びている高速道路が存在しなかった。深い山をぬうように走る国道などの一般道を南下するしかない。取材中、筆者が実走してわかったのは、飛ばしても2時間はかかるということだ。Xが電話をしていなかったのは 午前2時40分ごろから午前4時59分までの約2時間20分である。ちょうどそのときに伊勢から県南部の実家まで移動していたと考えると、説明がつく。少なくともXの電話が携帯から自宅電話に切り替わった5時半すぎには自宅に帰っている事実は、伊勢と彼の自宅の遠さからすると、しっくりくる。

 逆に二人が合意せず、辻出さんが抵抗したケースを考えてみたい。Xの言うとおり行為に及んだとすれば無理やりということだから、辻出さんは強姦されたということになる。辻出さんはXに対し必死で抵抗したはずだ。それに対しXも何らかの暴力的な行為により、辻出さんの抵抗を抑えたとしてもおかしくはない。先に紹介したホテトル嬢の供述通りのことを辻出さんがされたとすれば、それこそ最悪の事態を迎えていても不思議ではない。

 その場合、Xは一刻も早く事態解決をはからねばならなくなる。Xが警察に逮捕され罪に問われたくなければ、亡骸や被害者の所持品といった、犯行の形跡を示す物的証拠を一刻も早く、隠滅せねばならない。

 このケースで事が運んだとすれば、深夜にもかかわらずXが名古屋の彼女に電話したことや辻出さんが失踪してしまったこと、彼女の所持品がなくなっていたこと、それらすべての説明がつくのだ。

Written Photo by 西牟田靖

僕の見た「大日本帝国」 (角川ソフィア文庫)

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