「政府は改正児童ポルノ法を理解していない」 山田太郎議員が明かした答弁書の中身

 山田太郎参議院議員が、自身のオフィシャルサイトで児童ポルノ法に関する政府の答弁書を公開している。悪法との呼び声も高い児童ポルノ法が、現状でどのように解釈され、また運用されているのかがよく解る内容だ。

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※ 以下は、山田太郎議員のオフィシャルサイト 『「改正児童ポルノ禁止法施行に関する質問」に対する答弁書』 http://taroyamada.jp/?p=7028 より引用

『参議院議員山田太郎君提出改正児童ポルノ禁止法施行に関する質問に対する答弁書』

・一について
政府としては、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律(平成二十六年法律第七十九号)の内容について、法務省のホームページに掲載するなどして、広く国民に対し周知を図ってきているところである。

・二について
先の答弁書(平成二十七年二月十三日内閣参質一八九第一六号)一についてで述べたとおり、およそ実在しない児童を描写したものであれば、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号。以下「児童ポルノ禁止法」という。)第二条第三項に規定する「児童ポルノ」には該当しないと解される。

・三から八までについて
児童ポルノ禁止法第二条第三項において、「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう旨が規定されているところ、具体的にいかなる物が「児童ポルノ」に該当し、いかなる行為が児童ポルノ禁止法に規定する罪に該当するかは、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であることから、一概にお答えすることは困難である。

    なお、児童ポルノ禁止法第一条は、「この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を規制し、及びこれらの行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。」と規定している。

・九について
お尋ねの「一般社会で用いられている児童ポルノという用語」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。

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 上の答弁書について、当の山田議員自身もツッコミを入れているが、ここでも何がどうおかしいのか解説しようと思う。

 まずその一、改正児童ポルノ法の内容(単純所持も罰則が設けられるなど) の国民への周知は充分かという点について。 答弁書には 「法務省のホームページに掲載するなどして、広く国民に対し周知を図ってきている」 とあるが、では実際に法務省のホームページを見てみよう。 とその前に、この “ホームページ” という単語の使い方も誤用だと思われるのだが。

・法務省公式ページ(http://www.moj.go.jp/

 さて、政府は 「”ほーむぺーじ” に掲載して周知を図ってきている」 と言い張っているが、皆さんは上のリンクから児童ポルノ法に関するページに辿り着けるだろうか。 何の案内もなくスムーズにお目当てのページを探し出す事ができたら、あなたはネットサーフィン上級者だと自画自賛していい。 まずこれが政府が発する大きなウソのひとつで、広く周知しているどころか、これでは 「隠している」 と受け取られても文句は言えまい。

 それ以前に、政府の言う 「法務省のホームページ」 が、法務省の公式サイトのトップページの事なのかどうかも解らない。 お願いだから言葉は正しく使って欲しい。

 そして、次のニから八が何かと言うと、これはCGで描かれた絵やフィギュアなどが児ポ法に含まれるのか、または技術の進歩した今やCGを見ただけでは実在・非実在の区別が付かないのではという点や、時代に合わせて内容が変わって行くのか(現在合法の物が将来的に違法になる可能性があるのか) といった指摘を受けての回答。

 この箇所を読んで解るのが、政府はおそらく質問の内容を理解できていないか、もしくは解っていてしらばっくれているかのどちらかであるということ。この回答では「二次元作品などモデルが実在しなければ児ポ法の管轄に含まず」「児ポ法は子供を守るための法律です」といった、すでに既出の情報しかなく、山田議員が指摘した箇所を完全に無視しているかのようだ。例えば、この回答を元に考えれば「非実在モデルを描いた作品ならば児ポ法に含まれない」 と断言して良さそうだが、それでは『CG児童ポルノ裁判』において検察側から飛び出した「モデルが未成年者と解り切っているのだから、実在しようとしまいと関係ない。被害者(モデル) の特定も必要ない」という主張は法に反している事になる。山田議員は改正児ポ法に対して 「CGなどの場合、絵を見ただけではモデルが実在の人物なのかどうかが解らない」と指摘している。 これを 「CGを見逃せ」 という意味だと受け取るのは浅はかで、実際は 「この法律では被害者の特定ができず、よって被害者を守ることも助けることもできない」 という意味の方が大きい。 政府はこれに対してまともに答えられないのだ。

 また、何より恐ろしいのが 「法律で言う児童ポルノと、世間一般で言われている児童ポルノは、同じ意味合いで使われているのか」 という質問への回答(九) である。 これに対して政府は 「世間の言う児童ポルノの具体的な意味が解らないので答えられない」 と言っているが、法律を作ったのは自分達なのだから、法律文の意味や解釈が具体的に指摘できないほど適当に使われては大問題だと考えなければおかしい。 作った本人達が 「これこれこう」 と具体的に言えないものに対して罰則を設けたのが改正児ポ法だと言っているも同然だ。 これでは騙し討ち前提だと言われても返す言葉があるまい。

 こうした政府の無理解さと無責任さをさらけ出した答弁書を深読みするならば、彼らは「世間が勝手な解釈で間違った児ポ法を伝え広めること」を望んでいると判断すべきだろう。もし法の適切な運用を心がけているならば、間違った解釈が根付くことは是が非でも避けるはずだ。 それが答弁書で 「具体的に解らない」と言ってしまえるほど無茶苦茶な情報が拡散されていると知っているのに、何の手立ても打っていない。その証拠に法務省の公式サイトなどで周知していると言ってはいるものの、どこにその情報が掲載されているのか解らない有り様である。政府は世間に間違った児ポ法が浸透し、国民が “見えない児ポ法違反の恐怖” に支配される事を望んでいるのだ。

 こんないい加減な法律の作り方で、この先どれだけの人間の人生が狂わされるのか、想像しただけで恐ろしい。 改正児ポ法は、早急に再度の改正が必要であろう。

Written by 荒井禎雄

Photo by Zuerichs Strassen

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