【児童ポルノ禁止法】政府も警察も見てみぬふりをする児童性被害の実情

 先日、産経新聞の記者から「児ポ法について意見を聞かせて欲しい」と取材依頼を受け、改正児ポ法の問題点や、児童虐待・性被害などの実態について知り得る限りの話をさせていただいた。その結果が産経新聞社のWEBサイトにアップされたこの記事である。

『「児童ポルノ天国」の汚名返上なるか 改正児童ポルノ禁止法で「所持」も禁止に でも線引きはどこで?』
http://www.sankei.com/premium/news/150722/prm1507220005-n1.html

 ところが、この記事で使って貰えたのは 「川の上からセーラー服が流れて来るだけのAVだってある。そんな国でどうやって性的好奇心の有無を確かめるのか」という内容のみ。 これが世間の皆様にとって無駄にキャッチーだったようで、大事なテーマなのに児ポ法より “セーラー服の川流れ” の方に耳目が集まる結果となってしまったようだ。

 上の記事にコメントを寄せている皆様の邪魔をして本当に申し訳ございません。話の枕のつもりで、AVライターの大坪ケムタ氏と 「本当にあった超越者向けAV」について語り合った時の内容を伝えただけだったんです。まさかそこだけ使われるなんて。これじゃ私はそうそうたる面々が集まる場に、ひとりセーラー服の川流れの話だけしに来たKYなオッサンじゃないですか……。

 ちなみに、似たような超越者向けAVには、女の子がブルマ姿で大きな風船をひたすら割り続けるだけ(露出ナシ)とか、女性物の衣服を焚き火にくべて燃やすだけとか、盗撮は盗撮でも女性物の下着が干してあるだけで人間が出て来ないとか、色々と語りたい作品はあるのですが、また話がとっ散らかるので我慢します。

「風潮を変えたい」 が警察・政府の公式見解

 さて、ここからは頑張って少し固く進めて行く。上で紹介した産経の記事にもあるように、最近になって児ポ法推進派が、これまでケースバイケースでボカしていた改正児ポ法に対する本音を堂々と発するようになって来たように思う。 例えば、後藤啓二弁護士は産経の記事で 「子供を性の対象とすることを容認するわが国の風潮の改善が期待される」 と述べているが、これは単なる後藤弁護士個人の意見ではなく、警察も同様の見解である。 というのも、警視庁の児ポ法に関するWEBページに、このような一文がしれっと追加されていたからだ。

◇◇◇

「児童を性の対象とする風潮を助長する」
https://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/no_cp/index.html

児童を性欲の対象としてとらえる風潮が助長され、児童一般を他の様々な犯罪に巻き込む危険性を高めます。

◇◇◇

 これを内閣府のTwitterアカウントが拡散していたので、警察のみならず政府の公式見解でもあるようだ。

児ポ法の本来の目的は何か?

改正児ポ法の第一条にこうある。

『第一条  この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を規制し、及びこれらの行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。』

 児ポ法は、児童ポルノ(=児童の性被害や虐待の証拠) の取り締まり以外に、児童の権利擁護や児童保護を目的に掲げている法律である。それに対して「児童を性の対象とする風潮の改善が期待できる」とは何事だろうか。 本来は児ポ法によって子供を性被害から守ったり、また何らかの被害に遭ってしまった子供を保護・ケアしたりと、目線も差し伸べる手も子供へ向けられていなければ話がおかしいだろう。ところが 「風潮を変えたい」 では全く子供を見ておらず、ただ世のロリコン達を脅かし縛り付けるだけの法律にしかならない。このピントのズレ方が児ポ法の最大の悲劇であり、法律そのものと実際に運用する人間の思惑とが剥離・矛盾している点である。

児童の性被害は地下に潜る

 現行の児ポ法では、児童を犯した後に顔に精液をぶっかけるといった写真は、性器等が写っていない限り児童ポルノにはあたらない。 無表情な子供の顔に白濁液がかかっているだけでは、どんな状況か解らないからだ。

 また、親が子供の裸の写真や動画を所持していても、成長記録なのだから仕方ないとお目こぼしして貰えるそうだ。 であるならば、親が虐待の後に裸にひん剥いた子供を映してコレクションとして保存していても、虐待中の映像や画像でない限り処罰の対象にはならない。

 子供が性被害や虐待に遭う場合、加害者は親や兄弟である事が多いとは過去に何度も述べて来た通りである。 だからこそ児童の被害は表に出づらく、また性的に無知なため子供が大人になるまで自分が被害に遭っていた事に気付かない。 お年頃になって異性と恋愛関係になり、いざそういう雰囲気になった時にはじめて 「アレ? わたし父親にレイプされてた」 と気付く子すらいるのだ。それが児童虐待の怖さである。

 こうした現実を踏まえず、ただ 「世の風潮を変えたい」 というだけの法律なのであれば、今後も児童が親兄弟によって虐待や性被害の被害者になるケースは減りはしないだろう。 むしろ 「児ポは表に出すとマズイ」 と知られた分だけ、地下に潜って実態が解らなくなるだけだ。

実は児童の被害実態を把握している警察

 警視庁が発表しているデータにこのようなものがある。他にも年度ごとに揃っているのだが、とりあえず下記のリンク先をご参照いただきたい。

『子供の犯罪被害対策』
http://www.npa.go.jp/hakusyo/h25/honbun/html/pf221000.html

 この中に次のような一文がある。

◇◇◇

イ 児童虐待

児童虐待は児童の人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるものである。警察では、関係機関との連携を一層強化し、児童虐待の早期発見と被害児童の早期保護のための的確な対応に努めている。

ア 現状

平成24年中の児童虐待事件の検挙件数は472件、検挙人員は486人と、それぞれ前年より88件(22.9%)、77人(18.8%)増加、検挙事件に係る被害児童数は476人と、前年より78人(19.6%)増加し、いずれも統計をとり始めた11年以降で最多を記録しており、児童虐待の現状は極めて深刻な情勢にある。一方、被害児童数に占める死亡児童数(32人)の割合は6.7%と、過去最少となった。

また、態様別検挙件数をみると、身体的虐待が全体の7割以上を占め、検挙された加害者(353人)のうち男性が約4分の3(264人)となっている。被害児童との関係別では、実父が143人と最も多く、次いで実母が83人であるが、死亡事件に限れば、加害者28人中、実母が21人に上り、次いで実父が3人である。

◇◇◇

 悪い言い方ではあるが、警察は「子供を犯す父親、子供を殺す母親」という実態を把握し、データとしてまとめている。にもかかわらず、出て来る言葉は「世間の風潮を~」なのだ。こうしたデータが手元にあるならば、まずメスを入れるべきはどこか解るだろうに。

急務なのは性教育と家庭以外の相談場所の設置および導線の整備

 上のデータで解る通り、児童虐待や性被害を減少させたいのであれば、最もやってはいけないのは 「ご家庭でよく教えてあげてください」 である。家庭が最も危ないのだから、家庭以外に子供が気楽に立ち寄れる場所を作り、そこに相談窓口になってあげられる第三者を配備するしかないのだ。出来れば学校が望ましいのだが、子供への性教育となると途端に話がまとまらなくなるため、現状は民間団体に頼るよりないだろう。 なんせ「性教育は結婚してからでいい」という恐るべき思想を持つ人間を要職に配置する自民党なのだから、しばらくは政府には何も期待できまい。児童の被害を減らすには、児童自身に「何かおかしい」と気付かせるしかなく、その為には日本の性教育の在り方を考え直さねば無理な話なのに、今の政府はそれを根本的に理解しないのだ。よって、どだい無理な話とは知りつつも、それでも民間レベルでやれる事をやるしかない。 それが日本の現状なのだ。

 といったような話を産経の記者氏に伝えたのに、使われたのは 「セーラー服が川を~」 だけという羞恥プレイは、変態紳士の私も流石に少しドキドキしました。もし次があったら、その際はもうちょっとビギナー向けの責め方にしていただきたいと願うばかりです。

Written by 荒井禎雄

Photo by greg westfall.

見て見ぬふりをする社会

風潮じゃかった!