母親はホラー漫画家?障害者19人殺害事件から見える”マスコミの差別意識”

 相模原の障害者施設で起きた45人殺傷事件に関する報道では、この手の事件のお約束である「アニメ・マンガ・ゲームのせい」と臭わせる情報が殆ど出て来なかった。それに加えて、犠牲になったのが障害者で、容疑者にも処置入院歴があり、誰の目にも触れ方が難しいと解る事件である。そのせいか「この事件は○○のせい」といった手軽な手法を採り難かったようで、犯行の動機や心理といった面への切り込み方が甘く、意図的に避けているようにも見受けられた。

 ところが、ここに来て「容疑者の母親がホラー漫画家だった」というネタを掴んだ週刊FLASH(光文社)が、喜々としてそれを記事にしたのだ。

 問題の記事は、【(1)容疑者の生い立ち (2)両親の職業 (3)両親を知る人物の証言 (4)母親が描いたとされるホラーマンガの紹介 (5)容疑者の同級生の証言】といった構成になっているのだが、3と4及び4と5が文脈として繋がっておらず、いっそ4を抜いて読んだ方がスッキリするほどである。 どうにも無理やり突っ込んだ感が否めないのだ。

 FLASHが何故このようなチグハグな記事を掲載したのか定かではないが、まず間違いなく「親の職業が解ったから」が理由のひとつとしてあるだろう。では、なぜ漫画家だという母親の話だけが掘り下げられ、教師である父親については数文字程度でサラっと流されているのか。印象操作と言ってしまうと少々陰謀論チックになってしまうが、これが仮に母親がキラキラした作風の少女マンガ家であったなら、このような書き方をしただろうか。

 そう考えてみると、この記事の根底に酷い差別意識が働いている事に気付くはずだ。

「母親はホラーマンガを描くような女だ」
→「マンガにはスプラッター描写もあった」
→「だから異常な子供が生まれてもしょうがない」

 こういうロジックなのである。

 さて、この事件の容疑者は日頃から「障害者は殺した方がいい」といった言動を繰り返していた。そこには「障害者は人間として劣等である」という意識がある。今回のFLASHの記事には、それに共通するドス黒い差別心が根底にあると断言してもよかろう。ホラーマンガというジャンルを”賎”と捉えているからこそ、母親の職業だけをネタにしようなどと思い付くのである。

 今回の記事を書いた記者ならば、この凄惨な事件の容疑者の心情が我が事のように理解できるのではないかと思う。

Written by 荒井禎雄

Photo by Amateur.Qin

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