友人のジャーナリスト常岡浩介がクルド自治政府の拘束を解かれた件

 ジャーナリストで”友人”の常岡浩介がイラクで捕まったという報道を知ったのが10月31日。それから1週間後の11月7日になって、急遽、釈放が決まった。この記事の前3分の2は釈放が決まる直前に書いたものだ。その原稿のタイトルを変更したり、釈放後について思ったことを最後に3分の1ほど加筆したりしてみた。

 安田純平がシリアでとらわれて1年以上帰ってきていない中で、また彼が捕まるとは意外だった。記憶によれば、常岡の拘束は6年か7年ぶりのことだ。アフガニスタンで捕らわれて帰ってきたのが2010年の秋だったってことを記憶している。それ以外にロシアとかチェチェンとかグルジアとかでもそれぞれ拘束されていて、2001年の9.11テロのとき、彼は囚われの身であった。これまでにトータルで少なくとも1年、いや2年は拘束されているのではないか。

 私自身、これまでの拘束は毎回ずいぶん心配したものだ。しかし今回に関しては、心配する気が全然起きない。オオカミ少年の話ではないが、またかといううんざりする気持ちがひとつ、もう一つは彼の今回の拘束理由にどうも同情の余地がなさそうだということがもうひとつ。

 どちらかというと、後者のほうが私の気持ちを支配している。というのも次のような報道がなされたからだ。

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【エルサレム時事】クルド系メディア「ルダウ」によると、イラク北部のクルド自治政府当局にジャーナリスト常岡浩介氏が拘束された問題で、自治政府当局者は3日、常岡氏が取り調べで過激派組織「イスラム国」(IS)指導者の通訳を務めたことがあると明かしたと述べた。

 常岡氏は今週、クルド自治区内で、ISなどと関係があるとして治安部隊に拘束された。同氏はISが「首都」と位置付けるシリア北部ラッカを訪問したことを認め、仕事ぶりを評価されて「ISから名誉勲章をもらったと語った」という。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161104-00000014-jij-m_est

(以上、引用)

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 現地発のこの報道は本当なのだろうか。もしかするとプロパガンダの類なのかもしれない。しかし、彼が「イスラム国」(IS)に近いということは、彼自身のネット上の発信ですでに感じていたことだ。

 ツイッターで彼自身が「イスラム国」(IS)の幹部とツーショットで写っている写真を公開していたこと。一昨年の「イスラム国」(IS)志願兵として渡航しようとしていた北大生に同行取材をしようとしていたことで、公安から家宅捜索を受けたのだが、その後、ふざけてなのか”常岡浩介容疑者”と自称していたこと、計画が成功の折は、撮影した映像を「イスラム国」(IS)に渡して、「イスラム国」(IS)がそれをオフィシャル映像として流す予定があったという噂があること――などだ。

 彼と親しいジャーナリストの高世仁さんはブログで彼のことを擁護する発言をしている。それは、常岡が「イスラム国」(IS)のことをネタにして取材していることに言及したり、『常岡さんは「イスラム国」をイスラム教の教えに反するとんでもない輩だと非難しておりシンパでもなんでもない』と記し、常岡が「イスラム国」(IS)の一味だという話を否定したりしているのだ。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20161101

 私が聞いた噂というのも、公安はとっくにつかんでいるはずだ。一昨年秋、彼の自宅から応酬したパソコンを解析し、メールのやりとりやテキストファイルを見れば、わかるはずなのだから。としたら、私が耳にした噂というのは、ガセネタと言うことなのだろうか。

 にしても、腑に落ちないのは、高世さんの言う通り、常岡が一味ではないにしても、彼と「イスラム国」(IS)の近さをどのように説明したらいいのかわからないということだ。「イスラム国」(IS)の中に入り込んで取材したかったとしても、幹部と一緒にいる写真を嬉々としてアップするというのは常軌を逸しているのではないか。

 それに幹部の通訳を買って出たり、名誉勲章をもらったという陳述をどう解釈したらいいのかもわからない。彼は取り調べの際、攪乱のためにわざとそんなことを言っているのだろうか。それとも厳しい取り調べの末に、ゲロってしまったのだろうか。また、常岡を逮捕したクルド政府は一体どのようなことを掴んでいるのか。今後、どのような処分を下すのか。関係性が特定されて起訴され、何年も懲役を食らったりするのだろうか。気になることが尽きないが、確かめようがない。

 常岡はすでにルビコン川を超えてしまっているのだろうか。私自身、自己責任論は大嫌いだし、唾棄すべきものだと思っているが、彼が一線を越えてしまっているのならば、捕まったことは仕方がないし、罪を償うべきだというほかにない。

 一方で、安田純平の方は何の罪も犯していないはずなので心配していることはもちろんである。2人とも同じような紛争地にいくジャーナリストだが、それぞれの拘束は分けて考えねばならないのかもしれない。

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 11月7日の夕方になって、本人がいきなりツイートし、解放されたことがわかった。そして彼自身が現地メディアの報道についてツイッターで反駁した。
https://twitter.com/shamilsh

「釈放なう。明日、夕方帰国いたします。ご心配おかけいたしました。皆さま、ありがとう」

「なんか、クルドのルダウというメディアが、ぼくがISの通訳をやって勲章をもらったとデマを報道したとか。ひどいよ!ぼくアラビア語全くわかりません」

「二年前の取材で入手したISのキーホルダーを資料として持っていたのですが、大統領記者会見のセキュリティーチェックでこれが問題とされ、ISのメンバーではないかという疑いで逮捕、尋問を受けていました。クルド当局のみなさまにはご説明いたしましたが、ぼくの無実を信じていただきたいです」

 これを読み、彼に対し、釈放されてよかったと思った。と同時に、「罪を償うべき」と厳しく書いたことについて、撤回すると同時に、彼に対し、「すまなかった」と謝罪したい。

 にしても、なぜこのようなデマが現地メディアが発信されたのだろうか。その点については、今も疑問は残る。それに彼自身の「イスラム国」(IS)との近さについては、今もわからずモヤモヤしている。

 赤軍派の人たちのように、彼は今後、パスポートを発給してもらえず、一生、国内から出ることはできなくなるんだろうか。だとすると、彼にとって、これ以上の大きな仕打ちはない。

Written Photo by 西牟田靖

イスラム国とは何か

無事で何より。