アル中は簡単に治らない! 地獄を見た元妻が壮絶な5年間を振り返る

 TOKIO山口達也メンバーが酩酊状態で起こした強制わいせつ事件。記者会見やTOKIOの4人による謝罪会見で明かされた山口メンバーの姿から、「ああ、やっぱり」と嫌な予感は的中。6年前に離婚した元夫の状況と酷似しているのです。私が体験したアルコール地獄の5年間を、経験をもとにお話したいと思います。

医師に「依存症」だと診断されるまでのハードル

 まず、「なぜアルコール依存症の診断がつかないのだ」と疑問を呈する人もいますが、依存症の診断が出るまでには時間を要します。「常時飲酒状態」「飲酒で仕事がままならない」「人間関係が崩壊している」など、診断のハードルは高く、現在の山口メンバーに診断がつかなかったのも頷けます。
 おそらく、山口メンバーの状態は依存症手前、「アルコール乱用」であると推測できます。「乱用」とは、普段は仕事もこなし、酒との関係も深くなく見えます。しかし、一旦飲み出すと止まらず、自制が効かなくなります。酒席でのトラブルも増え、二日酔いなどで仕事に支障をきたすこともあります。この乱用状態が一番タチ悪く、家族や関係者を巻き込む破滅への入口です。元夫もそうでした。
 
 彼は、非常に人望があり、後輩たちの兄貴分的存在。会社では常に営業成績上位でした。食事に行くと気前良く奢ってくれ、いつも楽しい時間を提供してくれる人でした。ただ、深く酔うと記憶をなくすことが多く「目が離せない」と私が感じていたのも確かです。人気者であるがゆえ、お酒で少し失敗をしても周りが「まあまあ、たまにはあるよね」と甘い目で許してしまうのです。ここは、山口メンバーも同じではないでしょうか。

 しかし、この状態が数年続き、酒席でのトラブルが増加。ここからが先述の「アルコール乱用」の状態に突入です。仲間と飲んでいたのが、そのうち一人飲みになり、酩酊状態で帰宅することが増えてきたのです。また、自分勝手な言動も増え、私が出産間近でお腹の張りが強く「帰ってきてほしい」と連絡しても「出産って大変? 自分で病院行っておいて」と電話を切られることもしばしば。そして、1回目の事件が起きます。飲酒運転での検挙です。単独事故であったため交通違反と罰金のみで処理されましたが、子どもが産まれた翌日のことでした。

酔った上でのトラブルを一切覚えていない

 普通の人間ならば、ここで断酒をするか、心を入れ替えるものです。元夫はここが立ち直れるかどうかの境目でした。アルコール乱用状態であっても、普段はまともな精神を持っているため、自分で起こした事件を受けて止めることができます。しかし、その重大さにはたと気付き、押し潰されそうな気持ちを酒によって解放しようとします。徐々に酒量が増え、家で怒られる→反省する→落ち込んで酒に逃げる→朝帰り&酩酊のループを繰り返すようになります。

 そうこうしていると、次のトラブルが発生します。飲み屋での傷害事件です。「帰ってこないな」と思っていたら、警察から電話。「ご主人を傷害容疑で逮捕しました」。お店の女性と口論になり、暴力をふるい怪我をさせてしまいました。数日後、面会に行きましたが本人は何も覚えていません。「嘘でしょ?」と思うくらいに、その夜のことを何も覚えていないのです。元夫は初犯であることから略式起訴され起訴猶予処分の判断が下されました。

 ここからの転落が速かった……。

「月に1〜2度、酩酊し警察に保護される」「飲み屋で喧嘩して小さなトラブル起こす」「酔って怪我をして病院に運びこまれる」「家で暴言を吐き、暴力を振るう」。
 最終的には飲酒運転で人身事故を起こし、実刑判決。最初の事件からこの状況に至るまで1〜2年。非常に短期間で状況が悪化していきました。3歳だった娘は、10年経った今でも当時を記憶しており「お父さんさ…暴れていたよね。私、お酒飲む人、ほんと嫌い」と言うほどに幼い心を深く傷つけてしまいました。「酒を飲むやつにロクな男はいないから、結婚しない」とも。山口メンバーの離婚も酒が一因と言われていますが、子を守る母の立場として、離婚の選択は当然のことであったと思います。

 大事件を起こすに至るまで「お酒でトラブルあったのに、なんで止められないの?」と思う人がほとんどでしょう。始めは私もそう思っていました。アルコール乱用者の特徴ともいえますが、事の大変さを本人は認識しており、酒からの脱出を試みようとしますが、全く記憶がないため自分のしたことを正しく振り返ることができないのです。

 目覚めたら警察で、謝罪して、起訴されて。彼からすれば夢の中の出来事。周りから状況を聞かされても理解ができなかったのだと思います。元夫も山口メンバーと同じように「自分が甘い。もう酒は飲まない」と言いましたが、甘さを招く気持ちの推移や、甘さから出た行動を記憶していないため、どこをどう反省すべきか整理がつかないのです。アルコール依存症であれば強制入院も可能ですが、常時飲酒状態でなく、仕事もこなせる乱用者は日常生活を優先しがちで治療が遅れがちです。


「お酒さえ止めれば普通になるのでは」

 元夫も一時期治療に通いましたが、酒を断つ以前に「ストレスの耐性を上げる」ことが大切だと医師から言われました。「イライラしたり、不安になって酒を飲むのならば、イライラしない&不安にならないマインドを作るしかない」と。「考えが甘い、幼稚」と周囲は簡単に言いますが、そもそも幼稚でなければ、簡単にイライラしないし、不安にもなりません。またその解消法を酒に求めません。
 さらに「アルコール乱用者は、酒が強いと思われがちだが、本来は弱い。だから記憶をなくす。体が頑丈だから体調不良を起こすのが遅くなっているだけ。肝臓が悪くなったら、アウトだと思ってほしい。肝硬変から肝癌になる人も多い。記憶をなくす回数と時間が長くなれば、いずれは認知症の症状を発症する。どの道を選ぶかは本人次第だ」とも。多くの患者に接してきた医師は、この時点で手遅れであること、例え回復できたとしても、その道は相当厳しいものになることを私に説いてくれていたのだと思います。
 
 元夫とは、飲酒での人身事故で会社を解雇になった後、冷却期間を置いて離婚をしました。「お酒さえ止めれば普通になるのでは」と何年も戦い続けましたが、医師の言葉通り、本人がストレス耐性を上げる訓練を行い、酒と取り巻く状況と向き合わなければ、周囲がどんなに手を尽くしても快方しません。周りが手を差し伸べるほど、本人は犯した罪に苦しめられ、また酒に逃げるようになります。

 現在、彼は行方不明。実家とも連絡を絶っているそうです。正直なところ、離婚から6年経った今でも、「またトラブルを起こしてこちらに火の粉が振りかかるのでは」と心配もあります。いっそのこと「死んでくれていたら」とさえ思います。アルコール乱用者の家族は何年経っても、当時のトラウマに苦しめられ、常に不安を心に持ち続けるのです。

 TOKIOの会見で国分さんが「山口くんを放ってはおけない」という心情を吐露していましたが、当時の私を見ているようで非常に苦しかったです。酒に逃げない心を持つことは本当に大変です。心が強い人は一度目のトラブルで目を覚まし、自分を律します。
 山口メンバーのコメントに「何度も何度も繰り返してしまう」とありましたが、そこが問題です。「酒への逃げ癖」が麻薬のように体を蝕んでいて、この状態から脱出するには何年かかるだろう……と。もしかしたら、もう元には戻れないかもしれません。世捨て人となった私の元夫Aのようにならないことを祈るばかりです。(文◎東山みなみ)