IR法案が可決されれば東京の「ナイトタイム・エコノミー」は5兆円規模 古き良き社交場は消えるのか?

 ”5兆円”とも言われる巨額のシノギを巡って、早くも利権の分捕り合戦が始まった……。穿った見方をすればそうなるかもしれない。

 5月22日、国会において統合型リゾート(IR法案)施設整備法案が審議入りした。カジノ解禁が目玉でもあるIR法案は、加計問題で混迷を深める国会審議を安倍内閣が乗り切れば、6月中にも成立する可能性が大だ。

 さて、カジノの是非はひとまず置いておくとしても、問題は巨額利権とそれに翻弄される現場の人々である。ちなみに冒頭の5兆円というのは、カジノなどが解禁された後の東京における夜間経済の概算。ここ数年、”ナイトタイムエコノミー”と呼ばれて経済専門家の間で注目されている 「夜の儲け」は、すでにロンドンなどでは4兆円にも及ぶ経済波及効果を見せているという。

 本来、ナイトタイムエコノミーが注目されること自体はなんの問題もなく、むしろ都市人口の動態を見れば経済の論理から言っても歓迎・推進されるべきだ。実際、現在の東京ではこの経済動態に注目した動きが活発になりつつある。

 渋谷区では区の観光協会が外国人観光客を対象に、この4月から夜の渋谷を案内するツアーを開始し、好評を得ているという。なんでもそのツアーではのんべい横丁などの古き良き街はもちろん、円山町などにあるラブホテル街まで案内するというから、お役所も変われば変わるものである。
 また、欧米人を中心とした外国人観光客に人気の新宿のゴールデン街などは、いまやミシュランガイドで二つ星を取るほどの知名度で、経済関係者からはナイトタイムエコノミーの優等生という声もあがっているほどだ。

 このような動きを見ていると、経済活動に敏感な人たちだけではなく、宵っ張りの遊び人にも良いこと尽くめに思えてくるが、ことは簡単ではない。わかりやすい例でいえば、ゴールデン街がある新宿歌舞伎町である。

 歌舞伎町の中心地といえる旧コマ劇場前広場にあるミラノ座跡地では、東急が40階立てのエンターテイメント施設、ホテル、空港連絡バス乗降場などを含む一大再開発計画を進めている(2022年完成予定)。この施設が現れることで歌舞伎町は大きく変わる。また、周辺の再整備も含め巨額のカネが動くことは言うまでもない。

 そして、ここが大事なのだが、街のデザインは巨大資本が中心となり、周囲はそこに圧し潰されるしか道はなくなる……。つまりは、渋谷のんべい横丁やゴールデン街の隆盛をみて、単純に街が活性化したと喜んでいるだけでは朝三暮四の猿となる可能性もあるのだ。

 いま思えば、石原都政の頃の歌舞伎町浄化作戦もこの再開発の地ならしだったとみることができる。実際、2014年まで石原慎太郎氏はIR議連の最高顧問の地位にいた。ナイトタイムエコノミーに名を借りた為政者たちのシノギ争いを注視することこそは、真の意味で街を守ることになるのではないだろうか。(取材・文◎鈴木光司)