浮浪者コミュニティを操り「管理万引き」で荒稼ぎ…事実上の野放し状態か!?
広い売場面積を有する割に従業員が少なく、死角だらけのレイアウトを好む大型スーパーAは、我々関係者から「万引き犯製造工場」と揶揄される万引き犯の巣窟だ。
数多くの店舗を有するスーパーAの中でも、犯罪発生率が高い地域にあるK店の被害は甚大で、年間の万引き被害総額は二千万円を超えるという。そのK店から指名を受けた俺は、二カ月に及ぶ集中摘発を実施して、二百人を超える万引き犯を捕捉した。今回は、その街で見た浮浪者コミュニティの実情と、それを悪用する万引き商人の実態を報告する。
勤務初日。店の裏手にある公園の脇を通りかかると、澄んだ青空の下で楽しそうに駆け回る無邪気な子供達に混じって、二十人以上の浮浪者が公園のあちこちで酒宴を開催しているのが気になった。花見の季節でもないのに、平日の午前中から酒を喰らえるとは良い御身分だ。そんな彼らを尻目に、勤務開始の挨拶をするべく事務所に入ると、不審者の手配写真が壁一面に貼られていた。店長が来るまでの時間を使って、手配写真に写る顔を頭に叩き込む。すると、いつの間にか隣にいた店長が、苦々しい顔で俺に言った。
「巡回する前に、裏の公園にいるヤツらの顔も見ておいてくれるかな。あいつらが入ってきたら、絶対にやるから」
先程通りかかった公園には、いくつかの小屋も建っていたので、そこを根城とする浮浪者グループのことを言っているのだと一瞬にして理解する。
「ああ、裏の公園に住んでいる人達のことですね?」
「そう。できたら一番立派な掘っ建て小屋の中も確認しておいてほしいな。きっと頭にくるだろうけど……」
挨拶を済ませて公園に引き返すと、店長の言う一番立派な掘っ立て小屋は、すぐに分かった。ダンボールとブルーシートで形成されているものではなく、トタン板とカーテンのような布で建てられているから、一目瞭然なのである。
何気なく小屋の内部を覗き見れば、大量の米が積み上げられているほか、缶ビールのケースや日本酒の瓶、それに缶詰や化粧品など数多くの商品が在庫されている。さらには、炊飯器や電子レンジ、冷蔵庫まで設置してあった。その電源は、園内の公衆トイレから調達しているので、電気使用料を支払っていないことは明らかだ。
警察や行政は、何をしているのだろうか。そんなことを考えつつ、しばらくのあいだ監視を続けていると、割と身綺麗な男が小屋の中から出てきた。浮浪者から幾らかの金を受け取り、酒やツマミを渡しているところをみれば、この男がボスなのだろう。
(これは、酷いな……)
一度事務所に戻った俺は、目の当たりにした事実を店長に報告してから、ひとつ尋ねた。
「あの小屋にある商品は、この店でやられたモノですか?」
「ああ。全部とは言わないけど、そのほとんどが、ウチから持っていったモノだと思うね。あの米は、ウチでしか扱っていないブランドだし……」
さらに話を聞けば、あのボスらしき男は手下に万引きさせたモノを安く買い取り、それを売ることで利ザヤを稼いでいるらしい。時には、K店より安いという評判を聞きつけた地域住民まで客として現れるというので、被害店舗としては腸の煮えくり返る思いであろう。まったく、どうしようもなく悪いヤツだ。
結局、この日は、公園で見かけた四人の浮浪者を捕捉することができた。被害品は、ビールケースや米、それに大量の化粧品といった具合だ。それぞれに犯行理由を聴いてみると、公園に行って換金するつもりだったと答え、ボスから指示があったことも暗に認めた。しかし、そのことを警察官に話してみても、警察が動くことはなかった。いくら証言があったとはいえ、万引きは現行犯が基本なので、自らの手を汚さないボスを逮捕することは難しいのだ。
その上、浮浪者の逮捕に消極的な警察は、なるべく被害届を出させないように話を持っていく。この日も、化粧品を実行して捕捉された二人組(この二人が逮捕になったのは、車上狙いで指名手配されていたからだ)以外は逮捕されることなく、数時間後には公園に帰還していた。こんなことでは、ボスの様な万引き商人を跋扈させるばかりで、どれだけ捕まえたとしても状況は改善されないだろう。
つい先日、この公園の近くまで行く機会があったので、ちょっと立ち寄ってみた。数ヶ月前に、ここの店長の訃報に接したこともあって、その後の状況が気になっていたのだ。すると、驚くべきことに、あれから半年以上経過した現在も状況に変化はなかった。あのボスも、いまだ健在である。日本の抱える闇は深い。こうした不条理に接する度に、行政や警察の不甲斐なさを痛感し、自分の無力さを思い知らされるのであった。
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Written by 伊東ゆう
Photo by Thomas Leuthard
逮捕に消極的なのは困ります。