1駅5億円ってウソでしょ!? 鉄道駅のホームドア設置急務が叫ばれるのに遅々として進まない驚愕の理由

 駅ホームからの転落や列車との接触事故などを防いでくれるホームドア。2011年に視覚障害者が駅ホームから転落した事故をきっかけに、国土交通省がホームドアの整備促進を打ち出します。しかし、設置状況は大きく進まず、2016年8月に東京の地下鉄駅で盲導犬を連れていた視覚障害者が駅から転落して死亡するという痛ましい事故が発生。これをきっかけにホームドア整備の機運が高まり、国交省は「1日10万人以上が利用する駅」で原則として設置することを決めました。

 それから約3年が経ち、都心の大きな駅ホームではホームドアを見かけるようになりました。しかし、都心から少し外れているだけで、しかも結構な混雑をしている駅なのにもかかわらず、ホームドアが設置されていないところが多いように思います。実際、国土交通省のホームドア設置数を発表したデータでは、平成26年度末で615駅、平成27年度末で665駅、平成28年度末で686駅と、増えてはいるけれど劇的というほどでもありません。

 また、2017年に東京メトロ「九段下駅」でホームドアが設置される様子がメディアに公開されましたが、その作業工程はかなりシンプルでした。ものすごく概括してしまうと、駅ホームに空けた穴にホームドアをはめ込むだけ。あらかじめ穴は空けられていたので、取り付け自体は数時間で完了しています。ものすごい時間がかかる駅の大規模な改修工事とは違ってサクサクと導入できそうなのに、設置が進まないのはなぜなのでしょうか。

 この疑問について、筆者の知人で大手鉄道会社に勤務する人物に聞いてみたところ、即座に「お金だよ」というリアルな返答を受けました。

 なんでも、「ホームドアを設置するのに1駅で億単位でお金がかかる」そうで、全主要駅を同時並行で導入していくのはどう考えても無理なのだそう。よくメディアで言われている「同一ホームを利用する列車の乗降ドア数の違い(ホームドアの開閉口が増えて構造的に無理が生じる)」「停車位置を正確にするための高精度なブレーキシステムの導入」などの副次的な理由はいろいろとあるようですが、「それらのハードルをクリアするのにもお金がかかるでしょ」とのことで、結局は費用問題に集約されると言います。

 実際、『日刊工業新聞』の2017年7月4日付記事では鉄道関係者への取材から「1駅4~5憶円」と伝えています。また、JR東日本の駅は地下鉄と違って盛土構造のホームが多く、土台の補強工事でコストがかさみ、京浜東北線1駅で13憶円の工事費を見込んでいるともあり、どの鉄道会社でも主要駅全てを整備したときの金額は莫大なものになってしまいます。

 ちなみに、東京メトロが全路線でホームドアを設置した費用は602憶円(関連工事費含まず)で、JR東日本の山手線全駅では約550億円(2008年時点のJR東による概算)とのこと。
 JR東日本の場合は山手線以外にも設置しなければいけない駅が多く、主要駅全てに導入したら数千億規模ということです。
 あくまで私見ですが、ホームドアに対する「投資」で直接的な金銭的リターンは見込めません。しかも、大きな利益回収が見込めないのに、設置後のランニングコストも永続的に必要になっていきます。そのなかで経営的に無理のない予算を捻出して整備計画を立てなければならないことも、ホームドアの導入が緩やかになっている一因になっているような気がします。

 ただ、これまで整備を進めていくなかで、「ドア開閉式」よりも低コストな「バー式」や「ロープ式」など、新しいタイプのホームドアが開発されています。また、東京オリンピックによる混雑への対応が急務ということもあり、鉄道関係者の知人いわく「これから整備のピッチは早くなる見込みではある」とのこと。 
 実際、JR東日本は2018年3月にホームドア整備のペースアップを発表していて、2020年第1四半期までに山手線、京浜東北・根岸線を中心に 62 駅(整備済み32駅含む)、それ以降の2032 年度末頃までに268駅(2025年度末までに120駅)のペースでホームドアの整備を進めていく予定だそうです。

 企業にとっては絶対に無視できない「お金」という問題が絡むなか、それでも徐々に本格化しつつあるホームドアの整備状況。この流れが途切れないように、できるだけスムーズに設置が進んでいくことを望みます。(取材・文◎百園雷太)