夏祭りの最中に忽然と姿を消した女子高生 茨城県五霞町女子高生殺害事件の現場から|八木澤高明

遺体遺棄現場(筆者撮影)

 埼玉県草加市にある瀬崎浅間神社で夏祭りがおこなわれていた夜、女子高生が連れ去られたのは、今から15年ほど前の2003年7月6日土曜日のことだった。

 ここ瀬崎神社では7月、第一週の日曜日に祭りがおこなわれる。土曜日から多くの屋台が出て、神社の周辺はたいそうな賑わいをみせるのだ。

 被害者の佐藤麻衣さんは、夏祭りの会場で中学校時代の同級生と待ち合わせをしていたが、相手の都合がつかなくなり、ひとり祭りの会場にいた。その後、かき氷の屋台でアルバイトをしていた17歳の女性と意気投合し、佐藤さんは客の呼び込みなどをして、屋台を手伝った。
 かき氷屋台の女性によれば、午後9時過ぎに彼女の携帯に電話が掛かってきて、会話を終えた彼女は屋台を後にしたという。

 最後にその姿が目撃されたのは、谷塚駅前のコンビニだった。入り口近くに腰掛け、飲み物を片手に誰かを待っているような風情だったという。
 それから間も無く、彼女は谷塚駅から神社の周辺で、何者かに連れ去られたのだった。

 彼女が行方不明になってから3日後、彼女は変わり果てた姿となり、茨城県五霞町を流れる用水路で発見された。服装は上下とも黒いスポーツウエアタイプのもので、靴は履いていなかった。携帯電話や財布、腕時計など所持品は見つかっていない。

 白い靴下が汚れていないことから、室内など別の場所で殺され、車で運ばれ、遺棄されたとみられている。死因は首を絞められたことによる窒息死。のど元付近に強い打撃あるいは圧迫を受けたあざ、胸を素手で殴られたような痕もあった。手の爪に抵抗を試みて何かをひっかいた痕跡もなかったことから、のど元付近を不意打ちで絞められ殺害された可能性が高いとされた。

 気に掛かるのは、抵抗した痕跡がないという事実だ。通りすがりの男に目をつけられ、衝動的に車へ連れ込まれたのか、それとも以前から面識のあった男の車に乗ったのか、二つの可能性が考えられる。

 彼女の足取りが途絶えた、浅間神社のまわりを歩いてみた。事件が起きた当時、谷塚駅近くに暮らしていた男性にも話を聞いた。

「あの事件が起きた頃は、ここ谷塚駅や竹ノ塚駅では、夜なるとロータリーでナンパが盛んだったんですよ。けっこう知られていたんで、ロータリーにはナンパをする男たちの車が何台も止まっていました。他県からも来ていたんで、もしかしたらそうした連中の中に犯人がいるのかもしれませんね」

 あの夜、麻衣さんを連れ去り殺害した者の行方はいまだ杳として知れない。浅間神社の目の前を通る県道49号線は、彼女の遺体が遺棄された茨城県五霞町へと続いている。犯人はこの道を北上して、彼女の遺体を遺棄したのではないか。

 浅間神社から旧国道4号線を車で北へと走った。越谷のせんげん台で現在の国道4号線と合流するのだが、道の両脇にはホームセンターやチェーンの飲食店が建ち並び、郊外の幹線道路によく見られる既視感のある光景が続く。
 遺棄現場が近づくにつれて飲食チェーンやホームセンターもなくなっていき、道の両側には水田が広がりはじめた。

 浅間神社を出てから1時間半ほど走っただろうか、茨城県五霞町にたどり着いた。町は利根川、権現堂川、中川に東西南北を囲まれていて、地図で見るとよくわかるのだが、巨大な中州になっている。この町の北を流れる利根川沿いの用水路に、麻衣さんの死体は遺棄された。

 2016年度をもって事件解決に繋がる情報には300万円の懸賞金が掛けられていたが、それも打ち切られている。捜査は続けられているというが、事件はこのまま迷宮入りしてしまうのだろうか。(写真・文◎八木澤高明)