51歳の息子が生きる意味を見出だせなくて下着泥棒 懲役2年が決まった日、80を過ぎた母親は……

はけ口を下着に…(写真はイメージです)

「本当は悪い子ではないんです。小さい頃からいい子でした」

 弁護側の情状証人として出廷した被告人の母親はそう主張して息子をかばい続けていました。証人はもう80歳は過ぎているように見えるおばあちゃんです。

「今後の話はあまりしていませんが、本人はもうやらないって言ってました。その言葉を信じています」

 精一杯、息子の更正のために協力する姿勢を裁判官にアピールしていた彼女が証人として裁判に出廷するのは今回が初めてではありませんでした。
「小さい頃からいい子」で「本当は悪い子ではない」という彼女の息子は以前にも3回逮捕された経験があり、1度は服役も経験しています。

 彼女の息子、被告人である岩下誠(仮名、裁判当時51歳)は住居侵入、窃盗の2つの罪で逮捕され起訴されていました。具体的な公訴事実は、柵を乗り越えてマンションに侵入し一階の部屋のベランダに干してあった女性用下着1枚を盗んだという事件です。過去の逮捕歴も今回同様、下着を盗んだ事件でした。
「自転車を運転していたら干してあったパンツを見つけた。下着の匂いを嗅ぐことも、盗むこと自体も興奮する」
 という理由で下着を盗みましたが、マンションの管理人に見つかってしまい、逮捕されたのです。

40歳からの引きこもり

 彼は中学卒業後、飲食店従業員などの職を転々としていましたが40歳を過ぎたころから仕事をしなくなり母親と同居する家に引きこもるようになっていきました。
 母親の証言によれば
「ご飯の支度や家事はやってくれていました」
 ということですが、学校を出ていないこと、働いていないことなどに関して悩みを抱え、うつ病のような症状も出ていたようです。
「ストレスもあってまともな考え方も出来なくなってました。欲望のはけ口を探してました」
 彼にとっての欲望のはけ口、それは下着を盗むことでした。

 3度目に逮捕された時には実刑判決を受けました。ただでさえ社会に居場所を見いだすことに困難を覚えていた彼が、刑務所を出所した後に再び社会にとけ込むことなどできるはずもありませんでした。自暴自棄になりました。

「刑務所の中の生活も外の生活も、あまり差はないように感じていました。刑務所の外は、ただ自由なだけです。どちらにいても結局生きる目的は見えませんでした」

 彼が起訴されていたのは一件の下着窃盗事件のみです。

 しかし自宅の彼の部屋からは10枚以上の女性用下着が押収されています。前回捕まった時にも家宅捜索を受けていますが、その時にはそれらの下着は発見されていませんでした。この下着については、服役を終えて出所した後今回逮捕されるまでに盗んだとしか思えませんが、
「20代、30代のころに付き合っていた女性に貰った物で、盗んだ物じゃない」
 と供述していました。

 もし仮に盗んだものであっても起訴されていませんし、おそらく犯行の立証も出来ないため罪に問われません。ただ、だからと言って彼の供述をそのまま鵜呑みにすることは到底できません。彼の盗癖はかなり深化していると考えるのが自然だと思います。

50歳の「この子」

「この子が出所した後も、私の命がある限り絶対に見捨てません。この子と心中するくらいの気持ちで、更正に協力していきます」

 このように母親は話していました。
 50歳を過ぎていても、何度も同種の犯罪を繰り返して捕まっても、母親から見た「この子」は小さい頃と変わらない「いい子」であり「本当は悪い子ではない」というのは変わらないようです。

 彼が逮捕後、拘置所に移されてから母親は毎週面会に行っていました。また、被害者の女性に謝罪に行き示談金として10万円を支払いました。

 息子の面会に行った時、被害者に頭を下げていた時、彼女の胸にどんな想いが去来したのでしょうか?

 彼への求刑は懲役2年、判決も求刑通りになったと思います。息子が出所するまでの2年間、彼女は毎日何を想って過ごすのでしょうか?

「いい子」か「悪い子」か、彼女にはもうそんなことは関係ないのかもしれません。(取材・文◎鈴木孔明)