90年代サブカル鬼畜ブーム? 「口だけ文化系アウトロー」のふざけた言動

 90年代サブカル・鬼畜ブームについて、故青山正明さんや、危ない一号のライター、鬼畜ナイトのライターと接したり原稿依頼した、自分なりの想いをつづってみたいと思います。これは常々、考えていた事で、ここであの「ブーム」について一言、言っておくのも備忘録として意義があると思われます。

 鬼畜ブームの一環として、死体写真家の釣崎清隆氏らもその一翼を担っていたでしょう。

 まず、いつから死体写真が持てはやされたのか分かりませんが、「バースト」では確か、作家・花村萬月さんが嫌気が差して連載を降りたのだと記憶しています。
 僕もふざけた写真を撮りやがってと思っていました。で、それを安全な場所から人の背中越しに覗き「この死体、すごーい」とか言っている読者も腐っていると思っていました。
「言論の自由」、「表現の自由」は守る立場なので、僕は、こういったふざけた写真も守る立場です。    が、今から文体を変えて、死体写真をよく見ていた人にこう言ってみましょう。

「そんなに死体が好きなら、てめえの大事な親、子ども、友達の死体を写真に撮ってこいよ。できないんだろ。じゃ、何で死体写真見て手ぇ、叩いているんだよ。他人事だからだろうが。 
 でもな、その手を叩いている死体になった人にだって親はいるし、子供もしかしたらいるし、大切な友達もいるんだよ。そいつらの気持ちになってみ? それでも手、叩いて喜べる? 
 もしかして、出来るっていうやつがいるかも知れない。速いの決めちゃっている奴がいたりして。じゃ、そんなに嗜好家を喜ばせたいなら、てめえが死んでみ。死んで死体となった仲間たちを喜ばせてみろ。そんな覚悟もないんだろ。何が死体写真だ。人の命を何だと思っている」 

 です。ふざけた鬼畜ブームです。これがサブカルだとしたら、何が90年代サブカルだ、と思います。

 またレイヴとかも流行っていました。ライターでも葉っぱをやっている人、たくさんいましたよね。自己責任でやる分にはいいんですよ。けれど、「レイヴはお前ら読者には教えたくない」とカッコつけていたライターが、大麻で逮捕された時、取り調べが怖かったのでしょうか、仲間をウタっちゃいました。

 僕の周囲は、ああいった人らはいなくて、暴走族、体育会、チーマー文化が主体の学生時代でしたから、編集者になってから、こういった文化系アウトローとの出会いは新鮮でした。僕はその頃、新米編集者でしたが、新しい文化に触れた感じがしていただけに、ガッカリしました。
 どっちかというと「文化系の中に限った悪い奴ら」のライターの集まりだったあの人たち。警察とか関係ないとばかりに、わが世の春を謳歌していたけど逮捕された途端に、これですか。

 「警察ふざけんな」と言っておいて、意外に権力に弱い。「バースト」や鬼畜ナイトの皆さんにはそう思いました。何にもないんだと悟りました。
 それまでは、「俺たちこれほど、悪ふざけしてるけどかっこいいだろ、読者が拍手しているから調子に乗っちゃおうぜ」だったはず。
 で、警察に捕まって下向くんなら、初めっからかっこつけるなって。

 ロフトプラスワンで、僕に「これだけ切ったんですよ」と腕の傷を見せる女性、これだけ薬飲んでいるんですよと机の上に乗せる女性がいました。
 それがどうしました? それが何かカッコいいとでも? 恐らく、自分たちの行き場がとか言いそうですが、傷つけたらオーバードーズで死ぬ人もいるんですよ。彼女らも世の中を甘く見てました、文化系の中のアウトローみたいに。と言いますか、文化系のアウトローって要するにいないんだなと、気づきました。

 アウトローはアウトローなんだと。
 

 所詮、身体かけてガチでやっている不良とは世界が違います。もちろん、そこで張り合おうとは思ってはいないでしょうが。上には上がいます。

 僕は青山正明さんが好きでした。原稿を頂いたこともあります。

 彼の場合、どうしてもドラッグとオナニーの話に終始してしまうのですが、文章のキレはすごかったからです。編集者として尊敬しています。
 が、彼もまた文化系アウトローです。一度逮捕された後のおびえようと言ったら打合せの最中でも喫茶店の周囲見回すし、原稿内容も執行猶予の話ばかりでした。ですから、安全に自慰行為についての原稿を頼みました。結果的にドラッグにオチを持っていってしまったのですが。

 考えると「口だけ」と結論づけられます。川本三郎著「マイバックページ」に出てくる口だけ左翼運動家に似ています。いざ、警察に逮捕されたらべらべら喋っちゃう奴。自分たちがもしかしたら鬼畜で、「一般人のお前ら」よりイケてるとか思っていたなら全然違います。満員電車に乗って家のローンを払っているサラリーマンの方がとっても尊いですよ。

 青山さんが付けた「妄想にタブーなし」のキャッチフレーズだけは編集者として、当時は感心したんですけどね。(文◎久田将義)