【「アランド新宿」の一室で若い女性の遺体が発見】よみがえる「歌舞伎町ラブホテル連続殺人」
殺人が起きた隣はあの有名な……
また歌舞伎町のラブホテルで人が死んだ。
2017年12月5日、歌舞伎町2丁目「アランド新宿」の一室で若い女性の遺体が発見されたのだ。同伴の男性は朝方に退出しており、その際、従業員がベッドに寝ている女性を確認している。しかし午後8時半頃に再度スタッフが部屋を訪れると、彼女は浴槽の中で冷たくなっていた。
殺人か自殺か事故死か……なんとも判別のつかない不可思議な事件だ。真相については今後の警察発表が待たれるのだが、それはさておき。
私はこのニュースを見て、アランド新宿の立地に驚いた。その隣の建物こそ、2016年1月7日、火災によって60代女性が死亡した「ホテルまつき」だったからだ。さらに2日後、目と鼻の先の「ホテル・ゴールデンゲイト」も火事にあったため、この連続火災に世間は騒然とした。両ホテルともそのまま営業停止。特に「まつき」は廃墟となり、取り壊しを待つ状況となっている。
「まつき」は火災事故の前から、心霊の噂が絶えないホテルだった。その原因の一つは、古い木造の昭和レトロな造りのためだろう(ネットの評判によれば、床を踏めばギイギイときしみ、隣室の喘ぎ声も丸聞こえだったらしい)。
そしてもう一つの原因は、ここがあの1981年に起きた未解決事件「歌舞伎町ラブホテル連続殺人」の舞台の一つと噂されたからである。
殺人事件の被害者の怨念かーー!?
「歌舞伎町ラブホテル連続殺人」とはなにか。まず1981年3月、ホテル「ニューエルスカイ」にて女性の絞殺死体が発見されたのが全ての始まりだ。
続いて4月、「コカパレス」で、6月には「東丘」にて、いずれも女性がパンストで首を絞め殺される事件が発生。謎の犯人による連続殺人という恐怖はもとより、被害女性の三人ともかなり複雑な事情を抱えていたため(ここでは割愛するが)ワイドショー的な報道が加熱した。
そして二週間後、「東丘」から二軒隣のホテルにて、ホステス嬢が同伴男性によって絞殺されそうになる事件が発生した。ここは女性の抵抗により未遂に終わったが、件の連続殺人犯とおぼしき男は逃走。そしてこれ以降(おそらく、だが)この殺人鬼は女性を絞め殺す衝動を抑えたまま、今もどこかで暮らしている。
話を2016年の連続火災に戻そう。この騒動を受け、ネットでは「まつき」も「ゴールデンゲイト」も「歌舞伎町ラブホテル連続殺人」の舞台となったラブホテルだ、殺人事件の被害者の怨念が火事を招いたのだ……といった噂が飛んだ。
「まつき」の場合は神棚のロウソクから出火したという状況も、こうした憶測を加熱させた。
結論から言えば、これは完全なデマである。この噂が流れた直後、私は当時の事件報道で住所を調べたり、1981年前後の歌舞伎町の住宅地図を参照してみた。その結果、先述した殺人事件の3ホテルと、火事にあった2ホテルはまったく別地点に位置していることが判明。都市伝説・流言飛語とはこうして生まれるのだな、と実感したのである。
なぜ歌舞伎町のラブホテルは人殺しの舞台になるのか
ただ、このようなデマが飛んでしまう気持ちも分からなくはない。例えば「東丘」も事件の6年前やはり殺人事件が起きているように、歌舞伎町ラブホテルが人殺しの舞台となるケースは多いのだ。私が調べた限り、「男が女を絞め殺した」ケースだけでも、数年に一度のペースで発生している上、記事内であげたホテルの隣や両隣だったりもした(営業中の店もあるので名前は伏せておく)。
もちろん絞殺以外の殺人も多々あったし、話を自殺や心中や事故死に病死まで広げれば、歌舞伎町の「事故物件ホテル」は枚挙に暇がないだろう。
火災死亡事故を起こし、かつての殺人現場と嘘の噂を流され、今しも取り壊されそうになっている「まつき」。その隣のホテルでまたも死人が出たと聞いて、私は当初「そんな奇妙な偶然が起こるのか」と驚きはした。しかしこの街のこのエリアに限れば、その程度の偶然は奇妙ともオカルトとも言えないのかもしれない。
ともあれ今回の事件もしくは事故については、被害者の冥福および真相解明を祈るばかりである。
取材・文◎吉田悠軌