特定秘密保護法、猪瀬知事5000万円問題を斬る…元『噂の真相』岡留安則の編集魂
メディアにとっては戦前の治安維持法を想起させる悪法というべき「特定秘密保護法」が強行採決された。特別委員会の強行採決を経て、その日の夜には衆議院本会議でも可決され、参議院に送致された。法案の内容はメディアでも報道されているので繰り返さないが、憲法を改正しなくても、国民の知る権利や、報道・取材の自由を大きく規制する国家による言論統制の機能を持つ恐るべき法律だ。
あまりにも問題の多い法案だけに、メディアや世論の反対の声が高まり、安倍政権としてもなるべく多くの政党の同意を得て採決する方針を打ち出した。みんなの党や日本維新の会と修正協議を重ねてきたものの、法案に対する疑問や問題点が解明されたわけではない。修正協議に応じる構えを見せていた民主党との協議は打ち切りとなり、特別委員会での強行採決となった。
何が特定秘密なのか、それをどうやって判断するのかも判然としない中での、審議打ち切り。安倍政権としては、政府や行政の判断を信頼して、丸投げして欲しいというのが本音のようだ。悪法といえども法は法である。いったん成立した法律は確実に独り歩きする。そのために、法律として制定される前に、様々な条件や適用の範囲を厳しく限定しておく必要がある。それがなければ、時の政権や行政機関によっていくらでも拡大解釈され、恣意的運用に歯止めをかける術はない。第三者機関によるチェックという当然のことを嫌がる安倍政権の独善性には呆れるばかりだ。
安倍政権が、これだけ前のめりになって法案の成立を急ぐのは、この法律の持つ危険性が国民に広く知れ渡ることを恐れており、早いとこ法律を成立させた方が得策という判断だろう。その法案の本質とは、国民の知る権利や人権を大きく侵害し、報道機関などの報道・取材の自由に大きく網をかけたいということだろう。
特定秘密を洩らした国家公務員は懲役10年の厳罰を科せられる。その公務員から特定秘密を入手したメディア、市民団体、大学などの研究団体も、共謀やそそのかしで訴追される可能性がある。捜査を担当するのは、警察や検察である。毎日新聞元記者・西山太吉氏の沖縄返還に関する密約スクープのように、これまでも不当に入手したと判断された事例も多く、まさに警察国家の到来である。戦前、戦中の治安維持法に匹敵する、「聞かる、言わざる、見ざる」時代の再来である。
そんな稀代の悪法の審議中に、猪瀬直樹東京都知事が徳田虎雄率いる徳洲会から昨年の都知事選前に5000万円を借金していたという事実が表面化した。報道番組やワイドショーでもこの猪瀬問題を各局が取り上げ、特定秘密保護法の報道が縮小される事態となった。猪瀬氏は大宅賞作家でもあり、言論・表現の自由を謳歌してきた人物である。その人物が、戦後最悪の言論統制の機能を持つ法案の論議がヤマ場にある時に、自らの不祥事が水をさす結果を招いた。本人の意志とは関係なくという意味では不本意かみしれないが、物書きの人生を送り、それによって世に出た猪瀬都知事にとっては、忸怩たるものがあったのではないか。
それにしても、猪瀬都知事の徳洲会問題に関する記者会見はメディアに関わってきた人物としてはお粗末すぎた。ブエノスアイレスのIOC総会における猪瀬都知事のハイテンションのぶりに比べると、明らかに消沈モード。表情に余裕がなく、発言も微妙に変化した。額には脂汗をかき、目をパチパチさせるさまは、石原慎太郎前都知事を想起させた。今年、9月に徳洲会への強制捜査が始まった後、猪瀬都知事は5000万円を徳田虎雄氏の長男である徳田毅議員に返却したという。おそらく、社会的には言い訳のきかない金であるやましさがあったのではないか。
5000万円を受け取った後、毅議員に借用書を書き、都知事選ではいっさい手を付けずに、先頃なくなった夫人と二人だけで金庫にしまっていたという。徳田虎雄氏と石原慎太郎前都知事とは深い付き合いがあり、その人脈を猪瀬都知事が引きついたのだろうが、都知事選で資金が必要だろうという徳洲会側の判断があったのは確かだろう。それが政治資金なのか、個人的な借用なのかは捜査の行方を見守るしかないが、猪瀬氏が石原慎太郎前都知事の後継候補でなかったら、5000万円という大金を右から左に動かせるはずもない。
今のところ、猪瀬都知事は辞任の構えは一切見せていないが、支持した都民の有権者である400数万人は釈然としない思いを今も感じていることは確かだろう。それにしても、東京オリンピック誘致で大はしゃぎしていた安倍晋三総理も猪瀬直樹都知事も政治家としてはお粗末すぎではないのか。
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Written by 岡留安則
Photo by ミカドの肖像 (小学館文庫)
【拡張!日刊ナックルズ】特定秘密保護法案(http://ch.nicovideo.jp/hisada/blomaga/ar404523)
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