安田浩一氏vsネトウヨY氏の騒動が示す「ネット弁慶」の正体~ネットウヨク論:番外編


 つい先日、ネットウヨク問題を追い掛けている記者・安田浩一氏と、主にTwitterで典型的なネトウヨ発言を繰り返す某人物(以下Y)との間にいざこざが発生した。このYは安田氏に対してかれこれ1年以上も粘着していたのだが、遂には安田氏が「そんなに言いたい事があるなら取材させて欲しい」とYの自宅を訪問。 

 すると、それに驚いたYが警察を呼んでみたり、Twitterでああだこうだ騒ぎ立ててみたりと、まさに蜂の巣を突付いたような状態に。おそらく自宅を突き止められた恐怖が彼をそうさせたのだろうが、彼にとっては不幸な事に安田氏の側に続々と援軍が集まり、最終的に 「自宅&本名晒し」の圧力に負け、全面降伏するに至った。

[以下安田氏による説明] https://twitter.com/yasudakoichi

(1) 本日、Yさん宅を取材で訪ねました。彼がなぜヘイトスピーチを繰り返すのか、その理由を聞いてみたかったからです。実はこれまでに数度、彼の地元に足を運び、周辺取材を重ねていましたが、直接に「当てる」ことはしませんでした。

(2) 今回は、きちんと話をうかがおうと思い、ちょっと高めの日本酒を手土産に彼の自宅をうかがいました。年末に「豪遊しよう」とのお誘いもあったので、少しばかり軍資金も用意しました。

(3) 彼の自宅のインタホンを押して、応対された家族の方に来意を告げました。すぐにYさんに代わってくれたのですが、私が「安田です」と名乗ると、突然にインタホン越しに罵声が飛んできました。「帰れ!帰れ!」。

(4) 取り付くしまもないので、その場を一度離れて、YさんにDMを送りました。突然にうかがって申し訳ないと思っていること、取材をうけてもらうことは可能だろうか、そうしたことを記しました。すると、Yさんから「30分後に来てもよい」との返信がありました。

(5) 約束通り、30分後にYさんの自宅を再訪しました。しかし、私を待っていたのはYさんではなく、1台のパトカーと数人の警察官だったのです。

(6) 私はYさんの家の前で状況を見ていたわけですが、そのとき、ドアが開いて、警察官に守られたYさんがちらりと顔をのぞかせました。なんと、Yさんは部屋の中でサングラスをかけていました。おそらく私に素顔を見られることが嫌だったのでしょう。

(7) もちろん私は取材の過程でYさんの顔写真を入手しています。サングラスをかけても素顔は知っています。

(8) Yさんの通報を受けた警察官たちは、とりあえず私に事情を尋ねてきました。私は取材者であること、それゆえに警察が介入するまでもないことを説明しました。警察官も「まあ、それならば仕方ないですね」といった感じでしたので、再びYさん宅の前に立ちました。

(9) 再びインタホンを押したのは警察官です。Yさんに私のことを説明しようとしたのでしょう。しかしYさんは、やはりインタホン越しに「個人情報云々」と言うばかりです。私も「ぜひ話をきかせてほしい」と返しましたが、そこでインタホンが切れました。それからはまったく応答がありません

(10) その後もYさんとはDMなどを通して色々とやり取りを重ねましたが、そのあたりについて今回は割愛します。いずれ、なんらかの形でまとめるつもりです。小ネタであることはわかっていますし、Yさん1人だけが抱える問題でもありませんし。

 この安田氏の発言以外に、「自分もYの本名や自宅を知っている」と発言する人間が現れ、その情報が正しいと解るや、常日頃は「何様だ?」と言いたくなるような上から目線の言動をしていたYが、人が変わったかのように降伏宣言を発する。

 ちなみに、どうして安田氏がYの自宅を訪ねたかと言うと、それはYが (フォロワーへのポーズもあったのだろうが) 安田氏を呼び付けた形だったからである。

安田氏からYへ

「ぜひまた公衆電話から連絡ください!ビビる必要はないから。酒くらいご馳走しますよ。」

Yから安田氏へ

「じゃ、俺と豪遊しにいこうか、全部驕ってくれる?たまには日本人にたかられるのもいいだろよ…」

安田氏からYへ

「いいよ。連絡ください。」

 そう、このYは安田氏の電話番号を調べ、わざわざ公衆電話から彼に電話をかけるなど挑発行為を行っていたのである。安田氏は著書の取材の際に、堂々と携帯番号が書かれた名刺をあちこちのネトウヨ系団体や構成員らに配っているので、Yからすれば安田氏の番号を知るのは容易だったはずだ。そしてこうも思ったのだろう。「実際に電話をかけりゃ安田もビビるだろう」と。

 ところがこれが大誤算であり、ネットウヨクとカテゴライズされる人間の致命的な弱さでもある。Yは本名・自宅バレや携帯番号バレを極度に恐れているようだが、世の中にはそんなものいくら流出しようが晒されようが屁でもない人間もいるという事が解らなかったのだ。そんな人間に突然電話を掛けたり、挑発的な文言で呼び付けるなどしたら「接触したいのかな?」と勘違いされ、こうなるに決まっているではないか。

 Yを始め、ネットに依存する「ネット弁慶」は、原則としてネットと現実社会との間に絶対の境界線を引く。Yのようなタイプは、ネット上の人格は 「中二病故の全能感」を持っているが、実際に社会の中で接してみると異常なほど脆い。そして今回のように相手が自分の聖域(=自宅などプライベート空間)に入って来ようとすると、強烈な拒否反応を示す。言ってみれば、引き篭もりの子が母親に「勝手に入ってくんなよババア!」とヒステリックに喚き散らしている姿に瓜二つなのである。

 Yも自分の匿名性が壊されて怖い思いをしたのだろうが、そもそもはYのあまりに迂闊過ぎる言動が招いた結果だ。彼は普段から朝鮮人を殺せだなんだと在特会のデモかのような不穏な発言を繰り返しており、今回の安田氏との一件でも、彼や仲間達は「安田をマフィアを使って殺す」といったアウトな発言をしてしまっている。せめて小学生の子供のように「友達のスーパーハカー」とか「極真空手をやっている先輩」程度で済ませば良いものを「マフィアがお前を射殺しに行く」なんて言っちゃダメだろう……。

 またYは安田氏以外に対しても、完全にアウトな物騒過ぎる言葉を向けており、今後は 「記者が自宅に来た」といった話では済まず、それ相応の「社会のジャッジ」を受けるハメになるかもしれない。とはいえ誰それが家に押し掛けて来てうんぬんではなく、「Yの言葉の暴力の被害に遭った人間から何らかの通知が届くかもね」という話だ。おそらく本人に自覚はないのだろうが、彼はそれくらいアウトな子だったのである。

 言論の自由とは、何でも好き勝手に言葉を発していいというだけではない。発した言葉に対する義務・責任が常に付いて回る。その覚悟があるならば好きにしていいよ、というのが言論の自由の意味だ。だから極論を言えばどんなに酷い差別的な言葉であっても、それを発する事自体はその人の自由である。ただし、その言葉を発した為に何らかの罪に問われても、それもまた当然なのだ。インターネットという公の場所で言葉を発した以上は、それに対して他人からのリアクションが返って来るのは当然。そしてそのリアクションが自分にとって好ましくない内容だったとしても当然。おまけに言えば、ネットの世界に「本当の意味での匿名」なんて無くて当然である。せめてYはこれらを自覚してから「ロールプレイングとして」 イキがるべきだった。

 ところが、Yのような引き篭もり型の人間は、何故か「ネットは公の場所である」という認識が持てない。お部屋の中のPCなどから接続しているとしても、ネットの世界は「お外」 なのだが、それを理解せず「絶対に安全なお部屋の中の出来事」だと思い込んでしまうのだ。そしてYのように無駄にフォロワーが集まってしまったりすると、彼らの前でいいカッコをしたいと考えてしまい、身の丈に合わない発言をしてしまう。すると引くに引けなくなって今回のような怖い目に遭うと……。思えば在特会会長の通名・桜井誠も、自分の本名バレを異常なほど恐れていたし、今回のYとは共通点が多い。ネットを使って目立ちたいのであれば、ネットとはいかなる物かを考えてからにすべきだろう。

 最後に、Yを面白がって攻撃している側の人間にも苦言を呈しておく。今回のYについては自業自得の面が多すぎるので庇うに庇えないが、どう考えても彼は病人である。診断を受ければ何らかの病名が付いても不思議ではない。そういう人間を寄ってたかって追い詰め、仮に勢い余って何か不幸な結末を迎えたとしたらどうなるだろうか? 

 Yを追い込んでいる人間の殆どが「反レイシズム」を謳っている面子だが、万が一の事があった場合に「反レイシズム運動」そのものに疑惑の目を向けられる事にもなり兼ねない。 確かにYは石を投げ付けるのに面白い的なのかもしれないが、具体的な被害を受けた人間でもない限り、お祭り気分で攻撃するのは控えるべきだろう。それでは鬱憤晴らしで「朝鮮人をコロセ!」と叫んでいるネットウヨク団体らと何も変わらない。少なくとも、世間は在特会も反レイシズム運動もどっちもどっちと看做すだろう。虐げられている弱者を助けたいと運動している連中が社会から疑われては、助ける対象の弱者が今以上に不利益を被る結果になる。 せめてそこまで考えてから公の場で行動すべきだ。

「(自分達が認定した)レイシストには多少暴力的な対応をしたって構わない」

「アイツは(自分達が認定した)レイシストだから石を投げる的にしたっていい」

 ↑これらも立派な差別だという事が解るだろうか? 差別問題がいかに根深く複雑なのか理解しているなら、Yに対する対応を間違えれば自分達の首を締めると気付けるはずだ。自分達に都合よく「差別・被差別」を使う輩があまりに多かったから、差別反対の声を挙げるという当然の行為を忌み嫌う日本人が増えてしまったという歴史をお忘れなく。

Written by 荒井禎雄

Photo by Toffee Maky

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