土井たか子氏死去と朝日新聞「誤報問題」 by岡留安則

 

元『噂の真相』編集長・岡留安則の「編集魂」

 土井たか子氏が肺炎により85歳で亡くなった。社会党から社民党議員として活躍した土井氏は女性初の衆議院議長も務めた。土井氏といえば、1989年の衆議院議員選挙で自民党に勝利し、マドンナブームの立役者となったことがあげられる。女性政治家の人気と台頭に危機感を持った保守陣営は土井氏が在日の出身であるとして、「WILL」においては、土井氏の本名を李高順であると断定した記事を掲載している。土井氏が提訴したことで裁判となったが、「WIIL」側が敗訴し、100万円の損害賠償を支払っている。最近のヘイトスピーチやネットウヨクの潮流は昔から根強く存在していたのだ。

 そうした潮流が表舞台に出てくるようになった背景には安倍政権による戦後史の見直しや嫌韓・反中といった世論の動きもあるのだろう。安倍政権が売りにしている女性閣僚5人にしても、思想的には安倍総理のタカ派の仲間ばかり。土井たか子氏は憲法学の講師であり、明確な護憲派であった。安倍総理は解釈改憲で集団的自衛権行使への途を着々と進めるタカ派の国家主義者。積極的平和主義などという耳障りのいい言葉を並べたてているが、その本音は米国とともに世界中で戦争が出来る国づくりである。軍事面だけではない。原発再稼働、TPPの関税撤廃、武器輸出三原則の解禁、特定秘密保護法の制定、消費税増税や大企業優先の税体系や雇用形態への移行なども新国家主義への再編・強化策である。

 こうした安倍政権の指向性の中で、朝日新聞は二度にわたる誤報記事で、讀賣や産経、「週刊新潮」、「週刊文春」、「週刊現代」、「週刊ポスト」などから執拗なまでのバッシングを受けている。朝日の誤報記事を弁護するつもりはないが、国賊、非国民呼ばわりされ、廃刊や国会喚問まで要求するメディアの体質を見ると末恐ろしくなる。まさに、大本営報道のようなメディアの動きを見ていると、安倍政権が狙う国策と軌を一にしているようにしか見えない。戦後史の中でも特筆すべき危険な状況だ。筆者が目にした中では「サンデー毎日」が唯一バランスのとれた朝日批判を展開していた。

 朝日新聞は700万部台から600万部台に部数が落ちるのではないかと推察する向きもある。安倍政権としても、朝日新聞が勢いを低下させて、盟友・ナベツネ率いる讀賣新聞がその分影響力を増してくれれば、メディア対策としても好都合だろう。しかし、そううまく行くはずがない。朝日バッシングで活字に対する信頼度が低下すれば、それは毎日や産経、讀賣にも影響を与える。当然、前述したような週刊誌にもいずれ波及する。結果的に活字ジャーナリズムの地盤低下につながる。仁義なきヤクザ抗争も総体的にヤクザ組織の衰退につながることと同じだ。ナンバー1と2が逮捕された工藤会や山口組も組織的には大きな岐路を迎えていると伝えられる。

 ヤクザ組織とメディアを一緒にするなとの声が上がるかもしれないが、部数では日本一の讀賣新聞もかつては「インテリがつくってヤクザが売る」新聞と比喩された時代もあったではないか。読者も讀賣新聞の憲法改正を支持しているというよりも巨人戦のチケット欲しさで購読している読者も多いのではないか。

 それはともかく、メディア同士が相互批判で切磋琢磨することは悪いことではない。問題はメディア同士であるという基本的な認識を共有することである。告訴や裁判沙汰も想定の範囲内とはいえ、基本はあくまで言論が舞台である。廃刊にしろ、とか国会喚問せよという主張は自ら権力の介入を招き入れる愚行である。そうでなくとも、安倍政権は稀代の悪法「特定秘密保護法」の導入を目論むファシズム指向である。こうした悪法に対しては、打ち方やめ!で連携して権力の策謀に立ち向かう決意がないと、安倍政権にとっては思う壺である。メディア同士で足の引っ張り合いをしている場合ではないのだ。

 そして、朝日への最終提言。部数が落ちたら、見苦しいあがきは止めて300万部でもいいからクォリティペーパーへの転換が必要かもしれない。朝日の誤報問題の根幹には官僚制度の疲弊がある。メディア企業が肥大化すれば必ず付きまとう弊害である。米国並みの新聞の在り方を模索すれば、無用な部数競争ではなく、紙面の質で競い合う新聞メディアを志向すべきではないか。無駄な組織や社員数を整理することによって、官僚制の止揚にもつながる可能性があるはずだ。すぐにとは言わないが、いずれは新聞経営の将来を本気で考えたら、検討すべき課題ではないのか。朝日の諸君よ!

Written by 岡留安則

Photo by trombone65 (PhotoArt Laatzen)

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朝日への最終提言。