不穏試合で顔面崩壊の女子プロレスラー安川惡斗の壮絶半生|ほぼ週刊 吉田豪

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 プロレスの範疇を超えた試合でボコボコにされて顔面を骨折し、視力を失いかけたことで良くも悪くも話題になった安川惡斗主演のドキュメント映画『がむしゃら』を鑑賞……したのはけっこう前なのに原稿を書くのが遅くなりました! 

 冒頭、レスラー仲間が誰も彼女のことを良くは言わない感じとか(彼女をボコボコにした世IV虎は「嫌いです!」とハッキリ断言)、どうにも空気の読めない言動の多さとか、蜷川幸雄門下の舞台女優出身で惡斗(=演劇)を名乗っているのにマイクアピールも下手だったりとか、運動能力が欠けていてプロレスの基本的な動きも危うかったりとか、アイドルレスラーと呼ぶほどのルックスでもなかったりとか、むしろ彼女と対戦する元グラビアアイドル・愛川ゆず季の完璧さが際立つばかり。ここまで欠陥だらけの彼女が団体側にプッシュされ、何度も長期欠場しているのに主演映画の公開直前というタイミングでチャンピオンへの挑戦が決まったら、ああいう試合になってもしょうがないだろうなあ……というのが最初の感想でした。

 ところが、そこからフジテレビ日曜昼のドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』を思わせる展開に突入。いじめ、レイプ、自殺未遂、境界性人格障害、白内障(「人間関係のトラブルで悪化」って、プロレスラー転身前の25歳で人間関係のトラブルではなかなか殴られないよ!)、バセドウ病、頚椎椎間板ヘルニアと、もはや彼女がプロレスなんか出来る身体でもなければ精神状態でもないことがわかってくるわけです。

 ただし、膝を壊して動きが悪くなってから逆に武藤敬司の試合が面白くなっていったように、プロレスは単なるアスリートの競技ではなくて、マイナスをプラスに転がすことができるジャンル。映画を観ていくうちに、彼女をプッシュした団体側の気持ちも理解できたし、現在無期限出場停止中の世IV虎も今回の件で世間に名前を売りつつ大きなドラマを背負ったわけだから、プロレスラーとしては確実にプラスになるんじゃないかと思いました。というか、今回のトラブルを面白く転がせなかったら、それは団体なり業界なりの責任ですよ。

Written by 吉田豪

Photo by -安川惡斗-映画『がむしゃら』オフィシャルページ