NHK紅白歌合戦を支える”お茶の間審査員”とSNS|プチ鹿島の余計な下世話!

《あの「紅白」は、なんと悪口をいわれようと八〇%という驚異的な視聴率を誇っている。この番組を見ずに新年を迎える人は少々ヘソ曲がりと思われるほどになってしまった。》

これは昭和49年2月22日の「天声人語」(朝日新聞)の一節である。当時の人気NHKアナ・宮田輝氏の参議院選挙出馬に関して書かれたものだが、それにしても「視聴率八〇%」ってすごい。それから40年ほど経ち、今回の紅白は《同9時からの第2部で、記録が残っている1962年(第13回)以降で最低となる39.2%となった。》(スポーツ報知)

視聴率を80%近くとっていた40年前から半減したわけだけど、これは低いのか高いのか。相変わらず高い視聴率とも思える。個人的な記憶では「紅白なんて見ねーよ、だせーよ」と言われていたのは昭和の終わりころから平成の始め(ざっくりいうとバブルの頃)という実感がある。

しかし最近は紅白への「反発」すらなくなり、あのダサさがいい具合にSNSにハマっている。「見ない」という拒否よりも、テレビの前に多くの人が同時にいる大晦日という稀有な時間帯を楽しむ。その結果、紅白を本気で嘲笑する自称・毒舌ライターなどのコラムより、「大ボケ・紅白」を気軽にツッコんで楽しむ一般のSNSのほうが今は面白い。さて、そんななか私は2年前の当コラムで最近の白組の強さに注目した。

《ここ10年、紅組の2勝に対し白組は8勝。2005年から2010年までは白組の6連勝で、ひとつ負けをはさんでまた連勝中。ヒントになるかもしれないのが、2002年から導入された「お茶の間審査員」方式だ。デジタル放送の双方向機能を利用した投票が行われるようになった。》

こうなると、熱心なファンがいる組のほうが優位に立ちそうだ。果たして一般の視聴者が知らないところで激烈な投票合戦がおこなわれているのか。いろいろ聞きまわり「30代・ジャニーズファン」の意見になるほどと思った。たしかにジャニーズも強いという前提のうえで「氷川きよし票を舐めるな」「EXILEもいるし、勢力的に白組は大手がいるから堅い」という返答だった。

そして「TVリモコンとスマホを駆使すれば2票イケる」と言うので、2票とも白組に入れたのかと問うと「兄にモノノフ票を入れられた」。チャンネル争いが勃発していた。

この話をきいて、私は本当の選挙のことを思い出した。何があっても投票してくれる基礎票をもつところは強い。しばらく「白組」は強いだろうという結論であったのだが(実際に翌年も白が勝利)、今回は珍しく紅組が勝った。

「一般有権者」のバランス感覚が働いたのか、それとも綾瀬はるかという大ボケの力が基礎票を吹きとばしたのか。多くの紅白無党派層も期待して見守ったであろう綾瀬はるかの司会ぶりが少しでも貢献したのなら「対基礎票」という意味で、紅白以外にも何か応用できそうな結果だったと私は思う。

以上、紅組のパフォーマンスが素晴らしかったという真っ当な要因は抜かして考えてみました。

Written by プチ鹿島

プチ鹿島●時事芸人。オフィス北野所属。◆TBSラジオ「東京ポッド許可局」◆TBSラジオ「荒川強啓ディ・キャッチ!」◆YBSラジオ「はみだし しゃべくりラジオキックス」◆NHKラジオ第一「午後のまりやーじゅ」◆書籍「うそ社説 2~時事芸人~」◆WEB本の雑誌メルマガ ◆連載コラム「宝島」「東スポWeb」「KAMINOGE」「映画野郎」「CIRCUS MAX 」

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紅白歌合戦と日本人 (筑摩選書)

話題に事欠かない国民的番組。