脅迫状が来た! 「暴走族なんて載せている雑誌は国賊だ」|久田将義
脅迫状の類は何通か貰った事がありますが、一度に何通も来たのがこの時の特徴です。
僕が編集長をしていた「実話ナックルズ」の増刊号があります。そこに「ヤンキー中学生」という記事を載せました。それが脅迫状を書いた人間の逆鱗に触れたらしいのです。
まず増刊を作った編集人に一通。「実話ナックルズ」編集部に一通。そして当時の版元、ミリオン出版社長に一通(僕は発行人)。
僕はその時、一日外出していたのですが脅迫犯から一日中会社に電話がかかってきたらしいです。そして、会社に来てみると僕のデスクに大きな封筒が置かれているではありませんか。
表には僕の名前が書いてあります。そして「抗議声明在中」となっています。内容は暴走族を賛美するような雑誌は国士として許せない、街宣かける、廃刊に追い込む、発行人は夜道に気をつけろ、というような内容でした。
完璧な脅迫です。手紙となると、手間暇やエネルギーがいりますがSNS上では、気軽にこういった事が書けてしまう為、逮捕者が跡を絶ちませんね。愚かな事です。気をつけましょう。
脅迫状にはご丁寧に組と右翼団体らしき名前まで明記してありました。連絡先住所と電話番号も書いてありました。僕は好奇心半分で電話をかけてみました。基本的に直電するタイプです。
その前に、裏を見て差出人の名を確認します。そして指定広域暴力団や右翼団体らしき名称も連名で書いてありました。
あれ?
僕の目はその名前に止まりました。なぜなら旧知の人だったからです。しかも、肩書が間違っているではありませんか。
すぐに携帯にかけて確認を取ってみます。「こんな脅迫状が来て名前が書いてありますけど、覚えはありますか?」という問い合わせです。あっさりと「ない」との事でした。
で、電話番号にかけてみました。普通、こういう事はしないものです。時間と労力の無駄です。警察へ行けば済む話です。
初めは「はい」と大人しく出てきた相手。
僕「僕宛てにお手紙頂きましたよね」
すると男の声が一変。
「おう、そうだよ」
会話は録音してあります。常に、ICレコーダーとテレホンピックアップを机の引き出しに入れてありました。
僕「この、街宣車とか廃刊とか何ですか? 裏に組織名が書いてあるのですが」
男「おう。国士としてお前の雑誌を潰してやるよ」
僕「日本を悪くしている元凶ってもっと大きなものがあるのではないですか? 仮にも国士を名乗っていらっしゃる」
男「じゃ、暴走族を賛美していいのか?」
僕「事件が起きた時は批判記事を掲載していますよ。それと国士なのに人様の肩書きを間違えてはいけませんよ」
男「○○組長は右翼もやっているだろうが」
僕「そんな事言っているのではなく、脅迫状は貴方が勝手に組長の名前を使ってしまったんですよね。箔をつける為に。そういう事をしている事自体がおかしいと言っているんですよ」
と会話をしているうちに「あ〜あ。分かったよ。お前さんは偉いよ。はいはい。ずっとくっだらねえ雑誌作ってりゃいいんだよ」と捨て台詞を吐いて切られてしまいました。
翌日、アポを取っておいた所轄のマル暴に被害届を出しに行きました。受理されるかどうかはともかく、提出したという「事実」を作っておくための目的です。被害届を出すのは編集者生活の中で三回目くらいでした。
対応してくれたマル暴は中年のベテラン刑事です。ちなみに、その刑事は『実話ナックルズ』を知らなかったのですが、別の刑事は苦笑いをしながら「ああ、はいはいナックルズね」という反応でした。なぜ苦笑いなのかは聞かないでおきました。
「それにしても」とマル暴。
「珍しい人ですね貴方は。脅迫状を出した人間に逆に電話をかけちゃう人って」
その通りです。まず、皆さんは僕のように脅迫者に電話をかけないで下さい。ただ、かける時は録音はして下さい。被害届を出す時、あるいは弁護士に相談する時にかなり有利になります。
ちなみにその後、そのマル暴から電話がありました。
「何か情報ありませんか?」
(久田将義・連載『偉そうにしないでください。』第十二回)