会社に脅迫電話がかかったきたら必ず録音しましょう|久田将義

 突然ですが、会社に脅迫電話ってかかってきた事はありますか? ないですよね(あるという方もいますよね)、普通。ないに越した事はないですし。けれど、編集者をやっていると、さまざま脅迫電話が入る時があります。

 ある時、編集部に一本の電話が入りました。応対していた女性社員が困惑した顔をしたのに気がつきます。

僕「あ、代わるよ」

 習慣となっている録音の用意をして受話器を取りました。
 因みに、トラブルの電話は録音しておくのは必須です。僕は「テレフォンピックアップ」をカセットかICレコーダーにつないでいます。「テレフォンピックアップ」は手軽で確実に録音できるので、重宝しています。
 大きな電化製品店に行けば売っています。安くて便利。録音は会社の担当者なら必ずしていると思いますし、家庭にかかってきた時も同様です。

僕「ちょっとお待ち下さいね(録音準備OK)。お待たせしました」
相手「(開口一番)お前のとこ、Mという編集が三菱東京UFJの事、探っているだろう」

 いきなりのカマシです。こういう恫喝パターンと、丁寧に来るパターンがあります。僕は後者の方が不気味で怖いです。「誰が」「どうやって」現在取材している情報を入手したのでしょうか。

僕「(図星だったしMさんの名前もあっている)そういう事はちょっとお答えできません」

声の持ち主はボイスチェンジャーを使っているのか、不自然な野太い声です。

相手「いや分かってるんだよ。三菱東京UFJと飛鳥会の事だろ? 旧三和の不正融資だろ」
僕「それも含めて言う事はありません」

飛鳥会は大阪の同和団体で理事の故小西氏は元ヤクザです。

相手「だから飛鳥会の記事を止めて欲しいんだよ」
僕「なぜですか? なぜそんなに執拗なんです?」
相手「お前もしつこいヤツだな、だからウチの事を書かなければいいんだよ」

 ここで僕の頭の中に「ちょっと待てよ」が浮かびます。相手は「ウチ」と言いました。

僕「今、ウチ、って言いましたよね。飛鳥会の方ですか?」
相手「いや違うよ」
僕「でもウチって言ったって事は飛鳥会の方ですよね」
相手「……お前、うるさい奴だな。まあ、とにかくお前の所の社員の首を斬ってさらすってこった」
僕「ど、どういう事ですか?」
相手「首さらしてやるよ。Sとかな。あいつ、中古のマンションの二階だよな。あと……お前が久田って人間か?」
僕「そうですが(汗)」
相手「とにかく、首を斬って晒してやるって事だよ」
僕「……は…あ」

それで電話は切れました。


 この脅迫電話は、これから約一カ月程にわたってかかってくる事になりました。相手の正体はいったい誰なのか。なぜなら「飛鳥会」は関西の団体であるので、通常なら関西弁で話すはずなのに標準語でかかってきたからです。

 ただ、会話の内容は殺人予告、すなわち脅迫なのでこれは何とか対応しなければなりません。しかし、向こうの電話番号もわからないので電話がかかってくるのを待つしかない訳です。そして、その時に会う約束を取り付けるつもりでいました。

 何より、女性部員を狙い撃ちするかのように電話をかけてくる事が陰湿です。しかもある程度身辺を知っているかのような内容の電話だったのが気にかかります。

 卑劣なやり方ですよね。弱い人間をターゲットにして脅迫してくる。僕にだって正義感みたいなもの少しはあります。いくらアウトローでもやっていい事と悪い事があるんじゃないのですか。女、子供に手を出さないのは筋ではないのですか。と思っていました。

 とりあえず、最寄りの所轄二つに被害届を出しておきます。

 それからも、恐らく同じ人間から何度も電話が各編集部員にかかってきていました。けれど僕の携帯にはかかってこないのです。会社には僕がいない時にかかってきます。これと同時に仕事も進行させなければならないので、心身ともに消耗してしまいました。開き直るしかない心境です。

「今日、決着つけようじゃねえか」

 それからしばらく経った夜、僕は岡留安則さん(元「噂の真相」編集長)を含めた旧『噂の真相』のライターと歌舞伎町ゴールデン街で飲んでいました。久し振りに楽しい時間を過ごしていました。
 そんな時、楽しい時間を割くようにとうとう僕の携帯に電話がかかってきました。ナンバーディスプレイに見知らぬ番号。

僕「はい」
相手「おう、久田か」

 「彼」でした。
 待っていた、という気持ちを抱くのと同時に恐怖感もわき上がりました。しかし怒りの感情も僕を支配しました。両方です。こいつ、一体いつまで続ける気だ、と。
 今日で決着つけようと思いました。むしろこのチャンスを逃せばまた、嫌がらせが続くでしょう。飲みの席からそっと離れます。

 もう、開き直っていました。編集者のそれではなく僕自身、相手の土俵に立った物言いをしました。しかし、頭の中は冷静になろうとしていました。一呼吸おいて受話器に声を送りこみます。

僕「誰の携帯か分かってんのかよ」
相手「分かってるよ」
僕「つか、分かってかけてきてんのか。今、アタマきてるからよ。今からオマエんとこ行ってやるから。女の子に対して、首斬ってさらすだ?」
相手「おお、やってやるよ」
僕「今どこ」
相手「六本木だ」
僕「だったらロアビルの一階にウルフギャングカフェって店があるから待ってろ、20分で行ってやる。俺の携帯にかかってきたってこと自体舐めてるわ。ふざけやがって。腹くくったから」

 で、ふと思い返しました。
 何でわざわざ僕が行かなければならないのでしょう? 向こうが悪いんだから足を運ぶのは向こうだろう、と。

僕「考えたんだけど、何で俺がオマエん所まで行かなきゃいけねえんだよ。今、歌舞伎町で飲んでるからテメエが歌舞伎町来い」
相手「おう、行ってやるよ」
僕「〝行かせて頂きます〟だろ。風林会館に着いたら電話しろ。六本木からなら20分くらいだろ」

 飲み会の席に戻ります。岡留さんがニヤニヤしながら「久田君も相変わらず忙しいねえ」。僕は「忙しいっつーか」とごまかします。


 しばらくすると僕の携帯が鳴りました。

僕「着いた? 風林会館?」
相手「いや場所が分からなかったから、ホストクラブの愛本店の前だ」
僕「風林会館知らねえだ? どれだけ田舎モンだよ。十分くらいで行くから。電話切んじゃねえぞ」

 で、「ちょっと出てきます。また戻ってきますんで」と言い、ゴールデン街から歌舞伎町の花道通りを横切って「愛本店」に着きました。携帯はつながったままです。目印は携帯を持っている人間という事になります。ところが周りには携帯で話している人間がいないではないですか。

僕「おい、『愛本』についたぞ。いねえじゃねえか」

 その時、想像もつかない展開になってしまった。ボイスチェンジャーが取れて、相手の声が普通の声になりました。

相手「スミマセン」

 はあ?

僕「今さら何言ってんの。お前のやってる事は業務妨害、脅迫、迷惑防止条例とかだから、三つくらい、背負ってもらうよ」
相手「そこを何とか……」

 会社に帰って社長に報告。色々、話し合った末、今回はこれで解決という事にしました。女の子も納得しました。会社判断で事件にするのは却って煩わしかったのです。

 これって結局、イタズラ犯ですが、変に挑発するとこういう事になる場合があります。SNS上でも同様です。裁判で決着をつける事も全然あり得ました。

 が、当時は、政治家や大企業などの裁判を幾つか抱えていたこともあり、これ以上の案件を増やす事は得策ではないと判断した次第です。
 ただ、僕が「コイツはヤカラだ」と踏んだから、こういう行動を起こした訳で、おススメしません。真似しないようにしてください。

「録音」はしっかりとすべき。警察へ届け出る際、大変有利になります。読者の皆さんは、弁護士に相談すると良いかもしれません。(久田将義・連載『偉そうにしないでください。』第十四回)