そこで息子が死にました バスルームの髪 ――ハウスクリーナーの話(2)|川奈まり子の奇譚蒐集・連載【七】

前回に引き続き、ハウスクリーニング歴約20年になる手塚さんからうかがった話。

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バスルームの髪 ――ハウスクリーナーの話(1)|川奈まり子の奇譚蒐集・連載【六】

上野の寛永寺からほど近いマンションで遭った怪異。その体験談の締めくくりに手塚さんが「すぐ近くで奇妙な殺人事件があった」と言ったのが気になり、調べてみたら、確かに去年(2017年)5月、この辺りでちょっと不思議な殺人事件が起きていた。

高校3年生同士の恋愛のもつれから起きた事件で、18歳の少年が17歳の少女を殺して、逮捕された。と、それだけ聞いても、何ら不思議な点はないと思われるかもしれないが……。

事件の概要はこうだ。マンションで火事があり、火災現場から意識不明の少女が見つかって搬送先の病院で死亡が確認された。そこで当初は「台東区上野●●にある4階建てのマンションの2階の一室が燃える火事がありました。この火事で、部屋にいた高校3年の●●●●さん(当時17)が死亡しました(5月14日付ANNニュースより抜粋/伏せ字は筆者による)」などと、あたかも被害者が焼死したかのごとく報じられた。

しかしすぐに、死亡した少女と交際していた少年が殺害容疑で逮捕され、恋人を絞殺したうえで布団にライターで火を点けたと供述。
事実、遺体の近くにあった布団を中心に、およそ30平方メートルが激しく燃えていたのだという。

ところが少女の遺体には外傷がなかった。
さらに、検死の結果、肺の中からは煤が発見されず、代わりに水が検出された。
煤を吸い込んでいないのだから、放火された時点では呼吸が停止していたということになる。だから当初見込まれた焼死ではない。

さりとて外傷がないということは、少年が自白した絞殺の可能性も低い。
肺に水が入っていたことから死因は「溺死」と見なされた。浴槽に顔をつけて殺害した疑いがあると報じられたが、証拠不十分で、逮捕から20日後、勾留満期を迎えて殺人容疑は処分保留になった。

すわ釈放か、と思いきや、現住建造物等放火と死体損壊の疑いで少年は再逮捕されたそうだが、その後の経緯は報道されていない。
少女は本当に溺れ死にさせられたのだろうか。周囲で火が燃え盛っていたのに外傷がなかったのはなぜだろう。

「悪い気」を感じ取れる

「……あんな変な事件が起こるのは、悪い気が溜まりやすい土地だからなんじゃないかと思えてなりませんでした。
僕は、悪い気を感じ取れるんですよ。急に胃袋がムカムカして気分が悪くなったら、形が見えるわけじゃないけど、そこには何か良くないモノがある。また、悪い気が澱んでる所は薄暗く感じられるときもあります。
この力のせいで、不幸な出来事があった場所をあててしまったことも……。
あるお宅で、お伺いしてお掃除の見積もりを出すことになって、世帯主の男性に案内されながら各部屋を回ってたんですよ。そうしたら、子供部屋の隅っこに黒っぽいモヤがかかっている気がして。その1ヶ所だけ暗いような感じがするんだけど、暗いわけがないんです。晴れた日の昼間で、部屋の隅と言っても、そこは窓際だったんだから」

黒い瘴気がわだかまっていると言い表したらいいだろうか。悪い気が溜まっていそうなその場所に、手塚さんは試しに立ってみた。すると、胃に不快感が生じただけでなく、喉を押さえつけられたような息苦しさを覚えたのだという。

ここに悪い気があると確信した瞬間、子供部屋に入ったときから黙っていた世帯主の男性が顔を歪めて辛そうに声を絞り出して言うことには――。

「そこで息子が死にました。カーテンレールに紐を掛けて、首を吊って。発見したのは私です。あなたが立っているちょうどその場所で、自殺していたんですよ」

(川奈まり子の奇譚蒐集・連載【七】)