偶然か、必然か…未解決事件の真犯人を奇跡的に描き出していた映画『殺人の追憶』|李策

無実でありながら投獄されたユン氏だ。ただ、8件目の事件は連続殺人とは別件であるとされ、李春在に対する疑いは残った。それでも、6件目の事件現場に残された足跡のサイズ(25.5センチ)と李春在の足のサイズ(26.5センチ)が異なっていたことなどから、捜査線上から遠ざかっていく。

ちなみに、映画にはパク・トゥマン刑事(ソン・ガンホ)が犯人の足跡をねつ造するシーンがあるが、ユン氏の不当逮捕の裏にも捜査当局による様々な「でっち上げ」があった。

それにしても、現実の事件と映画にここまで共通点が多いのは何故なのか。李春在が真犯人であると報道された後、その顔写真を見たポン・ジュノは「非常に奇妙な感じがした」と語っている。一方、映画制作にあたり多くの事件関係者をインタビューしたと明かしているものの、それで犯人像が見えた、といった趣旨の発言は見当たらない。つまり、李春在とパク・ヒョンギュの類似性は「偶然の産物」ということになる。まさに奇跡的な偶然だ。

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それでもここまで似ていると、ポン・ジュノら制作陣は関係者たちへの取材の過程で、無意識のうちに真犯人の手掛かりに触れていたのではないか、と思わざるを得ない。(取材・文◎李策)