新幹線内無差別殺人から学ぶ 「有事」というものを真剣に意識していないといけない時代|岡本タブー郎

 まさか新幹線に乗っていて無差別殺人に遭遇してしまうとは誰も考えなかったでしょう。この、考えなかったことが突然眼の前で起こるのが「有事」です。それは今回のような殺人事件でもあるし、天災も同様です。

 私は、阪神大震災と東北大震災でどちらも震度5以上の場所にいた事、会社に突然警察がやって来たこと、ハメ撮りしていたら刃物を持った男がホテルの部屋に乱入してきたことなどの経験から、積極的に『有事の際に何をするべきか』ということを長年自問自答してきました。

 あっ!と思ったときはもう遅いんだということを身体に叩き込まれたせいもあり、非常時にどうやって逃げるかを日頃から確認したり、最低限誰を助けに行くべきかを湯船に浸かりながらじっと考えている時間が多くなっていきました。そして、自分には以下のようなことを課しています。

1、移動できる乗り物をたくさん持つ

 たとえば、富士山が噴火したとしましょう。東京からは富士山が爆発したことはすぐに分かると思います。私は大学のときに地質学を学んでいたこともあるので、おそらく富士の噴火により「ガラス」が降ってくるんじゃないかなと考えています。もし逃げ遅れたら……ガラスが降り積もった青梅街道を車で走ることは困難になるのではないでしょうか。しかも大渋滞になると予想されますので、まず車で逃げることは現実的ではありません。
 なのでバイクを5台所有しています。いずれもバラバラな場所に保管してあり、暇さえあればいつでもエンジンがかかるように整備をしています。リッター60近くで走ってくれるビジネスバイク、雨のときに逃げられるように屋根付きバイク、ただただ速く走れるように排気量の大きいバイクなど、その種類は様々です。富士山爆発の場合は練馬インターから北に逃げて、日本海沿岸を通り西日本へ逃げようと考えています。
 その他には、自転車を2台、キックボード1台も常備してあります。東北の地震のときは地下鉄がパニックでしたので自転車で街の写真を撮りながら会社へ向かいました。
 また、普段からあまり電車に乗らないようにしています。東京の電車はとくに「ストレスを乗せて」走っているようなものです。このような状況下では、いつ何が起きてもおかしくはないな…と思うことが大切です。

2、野宿できる用意をしておく

 西日本へ逃げるのに、どれだけの期間がかかるか分かりません。もしかしたらガソリンスタンドがパンクして給油できないかもしれません(車のトランクにはもちろん予備のガソリンも積んであります)。
 そんな状況では、本意ではないけれど野営しなければならないことも出てくると思います。富士の噴火なんて世の中が乱れまくっているでしょうからホテルへ泊まるなんてことは、まず考えないほうが良いです。
 ですから、テントとか寝袋とか料理を作るクッカーとか非常食とかライトなんかをひとつのバッグにまとめたものを3つほど用意し、自宅・車・バイクにセットしています。どのツールで逃げても良いように用意をしています。
 ただ、キャンプ用品を集めているとメーカーとか定番商品にこだわってしまい「やっぱsnow peakだよね」とか「テンマクデザインがさあ」とか言いがちなので、そういう時は自分に『遊びじゃねえんだよ!』と言い聞かせることが大事です。

3、職質で捕まらない程度の武器を

 これが一番大切になってきます。富士が爆発したら望月峯太郎の漫画『ドラゴンヘッド』に出てくるノブオみたいな奴がたくさん生まれると思うんです。
 こういう奴らが刃物を持って自分に向かってくる、或いは自分の大切な人に襲いかかっている場合、武器を持たずに闘うのは危険極まりない行為です。ラグビーやアメフト、格闘技などの経験があり腕におぼえがある場合なら別ですが、素手でキチ◯イと闘うのは絶対的に避けた方が良いと思います。
 そのために自己を防衛するための武器を持っていないとダメなんですが、刃物的なものは職質されたら一発アウトです。私の知り合いのヘアメイクさんは、Gパンにキーホルダーとして「十徳ナイフ」のようなもをぶら下げていて職質され、何日も勾留されて出てこられなかったことがありました。私も何度も車に乗っていて職質されていますが(ほぼ、目つきが悪いという理由だと思いますが)、警察はけっこう細かいところまで見ますから、そこから刃物が出てきたら…と考えると悪夢しか浮かびません。
 で、考えたのが「グローブと金属バット」というセットです。これなら「なんでっか!? わて、野球やりまんねん!」と主張できますよね。「明日試合でんねん」とか言えばスルーでしょう。近年は煽り運転なども社会問題です。キチ◯イに車を無理やり止められて身の危険を感じたら、この金属バッドを思いっきり振り下ろすことも視野に入れておいたほうが良いかもしれません。あくまでも「有事」の際ですよ。
 あ、ちなみにキャンプ用のナイフとかナタとかも絶対にアウトです。いくら説明しても職質で見つかってしまったら逃れるのは難しいと思っておいてください。要はむこうの気分次第ですから、普段から車に刃物を積んでおかないようにしましょう。

 今回の新幹線内で起きた無差別殺人で被害者となってしまった男性には、その勇気ある行動に尊敬の念を抱いています。結果として亡くなってしまったけれども、女性を切りつける男を止めようとしたことを決して忘れてはならないと思います。
 他の乗客に対して「なぜ助けなかったんだ!」という声も出ているのですが、おそらく車内はパニック状態だったろうし、何が起きているか分からない人たちにとっては「逃げること」だけが全てだったのだろうと想像します。
 もし、犯人の周囲に誰か警棒でも持っている人がいたら一撃だったかもしれない……と「たられば」の話をしてしまいがちですが、先にも述べましたように「有事」に「もし」は無いのです。
 尊い命を亡くされたこの事件を教訓にするしかありません。

 今日、あなたの身に何が起きるか分かりません。みなさんもぜひ「有事」を意識して頂きたいと思います。(文◎岡本タブー郎 『ざわざわさせてやんよ!』第八回)