「あなた、盗聴されていますよ」と現役官僚から言われました|久田将義

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 映画「レイン・フォール」の中で椎名桔平が、こんなセリフを言います。
「東京にはたくさんの監視カメラがついている。盗聴も同様だ」。
 その通りだな、と思った「事件」がありました。僕に「貴方、盗聴されていますよ」と忠告した人がいました。

 2007年の「防衛省の天皇」と言われていた守屋元事務次官が逮捕された汚職事件をご記憶でしょうか。

 あの当時、僕はあるキャリア官僚と連絡を取り、情報交換をしていました。

 当時、マスコミはリーク合戦。元防衛省官僚で警察庁に飛ばされた仮にA元課長としますが、彼が日々、昼休みになると日比谷公園で記者を集めて情報交換をしていたのも記者の間では知られた話でした。
 防衛省内にも当然派閥があり、守屋次官派と反守屋派があってA元課長は反守屋派だった訳です。彼にもあててみた事があります。場所は、やはり日比谷公園内の喫茶店でした。

「あなたの電話、盗聴されてますよ」

 そんな取材のさなか、僕は情報元のX氏(役職も所属官庁も伏せます)と電話をしているうちに、携帯の雑音がひどいのに気がつきました。

 それを話すとX氏は即座に「盗聴かも知れません」と答えました。彼自身、当該省庁では幹部であり、情報を取り扱う部署にいました。事実、まだ公安警察ほどの力はないとは言え、防衛省は情報保全隊という機関を発足させ、警察庁と同様に情報収集力に力を入れていました。電話を盗聴するという事自体、携帯がデジタル化されてから出来ないされていましたが、「盗聴されています」という現役官僚からあっさり言われて、逆に感心したのは覚えています。

 当時、守屋元次官は予算委員会で質問攻めにあっていました。そして、最大の関心事は彼の口から接待の席や商談の席で閣僚が同席していたか、つまり現役大臣の名前がテレビで流れるのか、という事に集約されていました。

 X氏とは盗聴を恐れて、固定電話で連絡を取ったりして酒を飲んだりしました。次第に心を開いたのか、しばらく経ってからX氏から興味深いペーパーを入手しました。恐らく守屋元次官だけ逮捕され、なぜ大臣だけ逃れられるのか、という彼なりの「官僚的義憤」からだと想像します。

 ペーパーは、内部文書に近いものです。現在、財務省のメモが注目されていましたが、実際に官僚はメモを残しているものです。習性でしょう。

 内容は大臣が山田洋行に便宜をはかるようにとのある種の「議事録」のような体裁でした。かなり、面白いメモでした。僕はこれを当時在籍していた「週刊朝日」で、記者と記事にしました。

 近々、予算委員会で民主党が質問する予定でした。質問者は、当時のネクスト防衛大臣と言われていた浅尾慶一郎参議院議員でした。どういうルートか忘れましたが、僕は参議院会館を訪ねる事になりました。

 「情報源はもちろん明かせませんが、記事を参考に質問すれば守屋さんの口から大臣の名前が出るかも知れません」というようなことを言いました。僕は民主党の味方でもないし自民党シンパでもありません。日本が良い国になって欲しいし、弱い人が泣くような国にはなって欲しくないと付け加えました。

 で、ふと思いました。これって民主党の独占スクープにされてもな、と。だから「週刊朝日によると、と入れて下さい」と念押しします。少しでも編集部員として、雑誌の売り上げに貢献したいと思ったからです。

 当日、僕は自宅でテレビで中継を見ていました。浅尾議員の質問の出番です。いくつか、基本的な事をやり取りが繰り広げられます。そして浅尾議員が資料を読み上げ、「そこには現役閣僚が同席していましたか」というような質問をしました。守屋元事務次官の表情は苦悩に満ちていました。沈黙のあと、答弁しました。

「いらっしゃいました」
浅尾議員「その人の名前は誰ですか」
守屋元次官は沈思しています。そして答弁席に行き
「久間さんです」

 ついに現役閣僚の名前が出ました。テレビで僕は思わず、声にならない声をあげました。
 が、「週刊朝日」によると、という文言が入っていないのは気になりました。やっぱり政治家だよな。わかってはいたが、ガッカリしました。すると携帯に福山議員から電話が入りました。興奮していました。

「やりましたよ。久間の名前が出ましたよ!」
「そうですね。……でもうちの名前は出ませんでしたよね…」
「あ、そうでした。すみません。とり急ぎお礼をと思って」

 というような会話で終わりました。

 その後、紆余曲折があって、民主党が政権を獲ったのは皆さんご承知の通りですが、それから数年経った現在はこの体たらくです。何も変わりませんでした。

 僕は、日本が住みやすい世の中になって欲しいと本当に思っています。自殺者なんか出ず、一生懸命働いている人がバカを見る世の中にはして欲しくないと思っています。
 それにしても、盗聴されているとしたら誰にされていたのか気になります。予想は何となくついていますが……。(文・久田将義 連載『偉そうにしないでください。』)