元ホテルマンが演じる『HOTEL‐NEXT DOOR‐』 俳優・猪征大インタビュー
猪征大さん あぁー、それって親に言われたんですよ(感慨深げに)。僕はもともと役者やりたいと思って浜松(出身地)から東京に来たんですけど、勇気がなくてホテルの専門学校に行きました。でも、ホテルマンになる気はさらさらなくて(苦笑)、「俺は役者になるんだ」と思っていたんです。就職活動が始まったときに夏休みに地元に帰ったんです。進路も決めなくちゃいけないので父親に「俺、俳優やりたい」っていう話をしたんですね。僕は応援してもらえると思ったんですよ。そうしたら、「何をナメた口利いてんだ。この世の中がどうやって成り立ってるか知ってるか? 色んな仕事をしてる人が色んなところで踏ん張って社会っていうのが成り立ってるんだ。おまえは何の経験もしてないくせに俳優になりたいとか、そんな偉そうに夢を語るな。『石の上にも三年』ということわざがあるように、まずは3年間、社会というものを学べ。それでも俳優になりたいという気持ちが変わらないんだったら応援してやる」って言われて東京に戻って。そのとき父親の言葉に何も反論ができなかったんですよ……。
――カッコいいお父様ですね。
猪征大さん 俳優になりたいという気持ちが弱かったわけではないと思うんですけど、そのときの自分は父の言葉に打ち勝って夢に立ち向かうほどの器でもなかったです。東京に戻って就職活動をして、お台場の、当時は日航東京(その後ヒルトンに買収)に就職しましたね。
「石の上にも三年」っていう言葉って、現代ではちょっと古くさい考え方でもあるじゃないですか。3年やったところで何がわかるんだ、というのも一理あると思うんですけど、僕はその父親の言葉で社会を3年経験したからこそいまの自分があると思ってるいますし、「いや俺は社会なんてどうでもいい、俳優になるんだ」ってそこで挑戦してたら、僕はたぶん簡単にへし折られて地元に帰るか東京でフラフラしてなんでもない生活をしてたと思うので、何かを極めるじゃないですけど、ひとつのことに3年っていうのは大事にしてます。
――YouTubeのショートムービーを2本、『花火がしける前に』と『エイプリルフールの夏休み』を拝見しました。『花火がしける前に』は主演の葵うたのさんとすごく息が合ってましたね。
註・幼なじみの良平(25)と未希(25)は、進学・就職を経て東京と地元で離ればなれになった。 お互いに初の彼女・彼氏だった2人は今でも連絡を取る友達。就職以来3年半ぶりに実家に帰った良平は、物置で昔買った花火を見つけ、未希を誘うのだった─
<出演>葵うたの 猪征大
https://www.youtube.com/watch?v=AmTLlrLy3yM
猪征大さん あの作品は仲間内で自主的に撮ったんです。うたのさんとはもともとお芝居のレッスンで同じところに通ってたこともあり、あの組み合わせは、観てくれた人からは「すごくいい雰囲気だね」とは言ってもらえました。
――ですよね、すごく自然体な感じで。あれは猪さんの役者としての持ち味なんですね。
●「自分で言うのもアレですけど凄く熱い性格です!」
猪征大さん そうでもあると思います。このキャスティングしてくれたのも役者の友達だったんですが、このなんともどかしい男の役は絶対に猪が合うよってことで僕に話をくれたんですよ。「猪にピッタリな内容の作品を友達が撮りたいって言ってるから出てくれる?」って声掛けてくれて、それで出してもらったんで。わりと近しい人が普段の僕を見てくれたんで、ピッタリって言ってくれる方が多いのかなと思います。ちょっと歯がゆい感じで、自分で言うのもアレですけど、弱っちかったりウジウジしちゃったり落ち込んだりハッキリしなかったりっていうのは僕の人柄としてもありまして(笑)。
――あんまりオラオラしてないってことですね。
猪征大さん してないんですけど、これも自分で言うのもなんですけど、すごく熱いことが好きだし熱い人が好きだし(笑)、熱いできごとが好きだしっていうのは裏側に持ってるので、それがメインで出てきたらもっとカッコよくなれるのかなって。
――おー、それはぜひ観たいですねぇ。猪さんが今の事務所(HONEST)に入られたきっかけを伺っても良いですか?
猪征大さん 入口は今のマネージャーでして『ストロベリーナイト』が初めてドラマに出た作品なんですけど、当時助監督(現在:監督)をされていた木村真人(共同テレビ社員)さんっていう方が僕はホント出たてで撮影現場の右も左もわからない中、気さくに話しかけてくれたんです。飲みに行きましょうっていうところから始まり、僕が前の事務所を辞めて、コロナ禍でフリーになって1年半ぐらい路頭に迷っていた時期も、いつも食事に誘ってくれてご飯を食べさせてくれたんですね。冬に2人で公園に行って凍えながら4時間ぐらいこれからのこととか話したり。
――熱いですねえ。
猪征大さん 熱いんです(笑)。で、事務所が全然決まらなかったんですよ。そんなときにキムラさんから連絡が来て、「下北沢で、ある事務所のマネージャーさんと飲んでるんだけど、顔見せ程度に会ってみない?」って言われて、すぐ下北に向かったんです。そこで今のマネージャーと会って「オネストという会社が新しくできたんで、来て話してみない?」って彼女は社長がすごくいい人だってめちゃくちゃ熱弁していたんです。
――(社長は)そういう人ですよね。
猪征大さん 僕も会社勤めをしてた時期があるぶん、企業とか組織ってあんまり仲間のことをよく言わないというか、基本愚痴が出ると思うんです。でもホントにめちゃくちゃいい人でっていう一点張りで、珍しいと思ったんですよ。部下が上司のことをこんなに誉めることある?と思って半信半疑で会ったんですけど、社長と話したらホントに完全に社長の人柄に惹かれました
――そうでしょうねえ。
猪征大さん 事務所が掲げているモットーみたいなことも、きれいごとで言ってるんじゃなくて社長が本心で思ってることを体現しようとされてる方なんだなと思って。それが自分が人生のテーマにしてることと同じだったりしたので、この人と一緒にやっていけたらもっと前に進めるかもしれないと思ってお願いしますって頭下げて入れてもらった感じです。
――なるほどです。納得の動機です。僕は役者さんに会ったら聞きたかった事が「演じること」でして、それってすごく難しいと思うんですよ。他人になりきるって。
猪征大さん そうですね。
――今回のホテルマン役は経験があるから没入できた感じだったんですか?
猪征大さん 本当の自分と役の人柄を重ねたときにすり合わせていく作業をしていじゃにいですか。その役の人物を理解できない部分っていっぱい出てくるわけです。役を考えていくなかで、割り算しても割り切れない数字がたくさん出てくると難しいんですが、今回はホテルという職場を経験していましたし、僕は部下の役で出演するんですけど、先輩とふたり組で夜勤するみたいなことが多かったので、そうなると自分の経験と、この役の生き方がマッチする部分が多かったので、そこは没入しやすかった部分はありますね。