70~80年代テレビが熱かった時代 プチ鹿島著『ヤラセと情熱 川口浩探検隊の「真実」』
「居たらたらいいのに」。
それが僕たちが持つ「幻の怪獣」の魅力なのです。「ダークサイドJAPAN」(大洋図書)という雑誌の編集長の時代。2000年前後でしょうか。その頃、『GON!』(大洋図書)編集長比嘉健二さんやルポライター朝倉喬司さんらから「サンカ」という幻の民族がまだ日本のどこかにいるという話を聞かされていました。ざっくり言いますと、縄文時代から日本列島に住み着いている原住民がいて、独自の文化と言葉を築いており、戸籍を持たずまだ生存しているというものでした。
実際、埼玉・秩父で「戦前サンカと過ごした」というご老人に僕らは取材することが出来ており、そこからサンカの足跡を探すべくライター、カメラマンと三人で秩父を回りました。途中、「サンカ料理」という看板が出ていたので喜び勇んでその店に入ると川魚料理でした。脱力しました。
「ここまで来てサンカの足跡が見られないとは」と僕は残念な気持ちになり、今は週刊誌の編集長に出世した、当時は若手カメラマンだったI君に
「とりあえずサンカっぽい写真撮ってよ」
と言ったところ大変困った顔をして「サンカっぽいって……」と呟いていました。
「だからサンカっぽい写真だって!」
と畳みかけて、
「川でも何でもいいから。そこにサンカがいたっぽいじゃん」
というような事を言ったと思います。いわゆる無茶ぶりです。
ここで、本書に戻ります。僕は正直過ぎたのと、ノンフィクションをうたっている雑誌なので「サンカ発見!!」などと書けば信用度を失います。しかし、「川口浩探検隊」制作者たちは全然、そんな事に構っていません。
「すげーモノを作って視聴者を驚かせるんだ」
その一心でヘビを集めたり、秘境に行って身体を張っています。そこに嘘はありません。バカバカしいものに金をかけ、熱を投じた当時1980年代のテレビマンたち。ダイナミックです。
1990年代に入ってから雑誌にそういったエネルギーは移行していったような思えます。前出の『GON!』だったり『宝島』『QuickJAPAN』といったヤンチャな編集者が作るヤンチャな雑誌です。今はテレビも雑誌もこういったいかがわしい面白さはYouTubeにとって代わられました。
一つ思ったのが、一体誰が雑誌でいうところの編集長(言い出しっぺ)なのか。本書に出てくるテレビマンたちの証言をまとめると、「川口浩探検隊シリーズ」の一番の「黒幕」は加藤秀之さんという元テレビ朝日チーフプロデューサー、この人の力量だったようです(本書に書いてあるようにな事件を起こして懲戒解雇)。彼がいなかったら、この番組は生れなかったでしょう。毀誉褒貶あると思われる人ですが、こういった人が思わぬ番組を作るものです。
いさぎよく、フェイクをフェイクだと言える番組はダイナミズムそのものです(最近使われている「フェィク」とは意味が異なります)。ダイナミズムは熱狂を生み、ブームを作り出します。著者が好きな東京スボーツ新聞もそう(今は違います)。個人的な話で恐縮ですが、久々に東スポらしい一面、「河童発見」の記事もそう。遠くに緑色の河童らしきものが写っていて、それを河童と決めつけるだけのダイナミズムと大胆さと思いっきりの良さ。見習いたいものです(あとで、河童だった記者から河童Tシャツを貰いました)。(文@久田将義 文中一部敬称略)