浜松・ガールズバー刺殺事件の衝撃 浮かび上がる「業界の構造的危うさ」
6日午前1時ごろ、静岡県浜松市中央区千歳町のガールズバーで、両手に刃物を持った男が店内に押し入り、店長と従業員の女性2人を相次いで刺すという凄惨な事件が発生した。現場は一時騒然となり、2人はいずれも病院で死亡が確認された。
JR浜松駅から近い繁華街のど真ん中で、深夜に営業していたガールズバーを舞台に発生したこの惨劇は、近年増加するガールズバー関連の事件の背景を浮かび上がらせる。そこにあるのは、少子化や、法規制の空白地帯に置かれたことによる業界の構造的リスクだ。
●規制の外にある営業時間と「送り」の欠如
クラブやキャバクラと異なり、ガールズバーは風俗営業法上の「接待飲食等営業」に該当せず、営業時間に制限が設けられていない。このため、深夜から明け方にかけて営業する店も多く、女性従業員が終電後に、あるいは始発電車を待って一人で帰宅するのも珍しくない。
多くのクラブでは深夜営業に備え、女性スタッフ向けの「送り」と呼ばれるシステムがある。店側が準備したバンなどの車両で、自宅まで送り届けるものだ。しかし、ガールズバーではそうした仕組みは一般的でない。
今回の事件は午前1時頃の発生だが、クラブやキャバクラは通常、この時間帯に客を入店させない。それまでの営業で飲酒したスタッフが酔っていることも多く、防犯意識は低くならざるを得ないだろう。
● 拡大するガールズバー 背景に「安さ」と「人手不足」
高級クラブやキャバクラは高単価を前提とし、豪華な内装や手厚い人員体制を必要とする。一方で、近年は少子化やSNSの発達による「ギャラ飲み」の普及などで、従業員の確保が困難になっている。
その隙間を突くように、低コストで開業可能なガールズバーが増加。1時間3,000円~4,000円という手頃な価格帯を売りに、若年層の客を中心に人気を博している。しかし、カウンター越しで客とスタッフが密接に接する構造や、狭い空間での運営は、いざというときの危機管理を難しくしている。
また、価格が手頃なのは基本料金だけで、それでは済まないのが普通だ。女性に飲み物をおごったり、ボトルを開けたりすればあっという間に数万円に達する。キャバクラなどで飲みなれた客ならばそれも承知の上だが、収入が追い付かない男性がハマれば生活が破たんの危機に瀕することもある。
●SNS時代の「接近」とトラブルの拡大
ガールズバーに限ったことではないが、近年はスタッフと客がSNSで容易につながり、店外での接点も増えている。人間関係の距離が縮まりすぎることで、恋愛感情や金銭的なもつれ、ストーカー被害へと発展するケースも少なくない。
浜松市のケースでも、殺人容疑で送検された山下市郎容疑者(41)が事件の数日前、死亡した従業員の女性と来店前の食事をしていたことが報じられている。女性は体調不良を訴えてその日は欠勤し、連絡が取れなくなったという。
さらに、クラブやキャバクラのようにボックス席での接客が基本ではなく、他の客の勢いに釣られた過剰な飲酒や暴力的な振る舞いが発生しやすい環境も相まって、トラブルは複雑化している。
●業界未経験者でも開業できる「危うさ」
ガールズバーの急増の背景には、法規制が緩く、少人数・少資本で始められるという参入のしやすさがある。しかしその分、経営者や店長がトラブル対応や安全対策に不慣れな場合も多く、今回のような凶行に対しても、店側で被害を最小化できる仕組みが整っていなかった可能性が高い。
● 「安さと手軽さ」の代償は、命の危険
今回の浜松市の事件は、ガールズバーが抱える脆弱性を極限的な形で突きつけた。風営法の盲点、未成熟な経営体制、女性スタッフの安全管理の欠如——これらが絡み合い、悲劇を招いたのだ。(文@金賢)