若者が歌舞伎町で飛び降り 「トー横」で今なにが起きているのか──変わりゆく歌舞伎町の境界地帯
13日午後5時40分ころに、新宿区歌舞伎町で人が落ちたとの通報があった。女子中学生がビルから飛び降り、下にいた男性と激突。女子中学生は死亡が確認され男性は無事だった。原因はオーバードーズだと言われている。
東京・新宿の繁華街「歌舞伎町」の一角にある「TOHOシネマズ新宿」付近──通称「トー横(トーホー横)」は、ここ数年、家庭や学校に居場所のない若者たちが夜な夜な集まる場所として注目を集めてきた。
飲酒や喫煙、薬の過剰摂取(オーバードーズ)、見知らぬ大人との接触など、社会問題として報じられてきた“トー横キッズ”たちの姿。だが2024年以降、トー横を取り巻く状況は徐々に変化している。
減った“たまり場”の光景 トー横の現在地
2021〜2022年ごろには、多い日で数十人単位の若者が深夜に屯し、トラブルや補導が相次いでいた。しかし、最近ではかつてほどの“集団”は見られなくなったという。
近隣の飲食店関係者はこう語る。
「一時期は10代の子が集団でたむろしていたけれど、今はパトカーや職質が多くて、自然と姿を見なくなった。たまに1人、2人が座っている程度です」
警視庁も2023年ごろから補導や見回りを強化。新宿署は「重点警戒区域」に指定し、週末ごとに警察官を増員。定期的に一斉補導を実施しており、2024年夏には10代中心の若者十数人が一夜で補導されたこともある。
また、新宿区や東京都もこの状況を問題視し、歌舞伎町での青少年支援を目的としたアウトリーチや、24時間対応の相談窓口の設置を強化した。
“集まれなくなった”子どもたちはどこへ
一方で、表面上は落ち着いて見える今のトー横について、支援関係者は「問題が解決されたわけではない」と語る。
「目に見える“たまり場”は減っても、ネット上でつながって、別の場所に移動しているケースが多い。見えにくくなったぶん、支援の手が届きにくくなった」(都内のNPOスタッフ)
実際、SNSやチャットアプリを介して出会い、都内各地で集合・滞在する「移動型トー横」のような動きも確認されており、行政や警察の対応をすり抜けている側面もある。
また、薬局で買える市販薬や、処方薬の過剰摂取(OD)による体調不良、救急搬送などの事例は後を絶たず、2024年には10代によるOD関連の事案が都内で複数発生している。
居場所の喪失と「声を上げられない」現実
トー横に集まっていた若者たちの背景には、共通して“居場所のなさ”がある。家庭内の虐待、学校でのいじめ、不登校、性的マイノリティ、経済的困窮──そうした問題を抱えながら、制度的な支援から漏れた10代が、トー横に流れ着いていた。
現在はSNS上で「病み垢」や「#居場所がない」などのハッシュタグを通じてつながりを求める傾向が強まっている。表には見えづらくなったが、「支援を求める声」が消えたわけではない。
“場所”ではなく“孤立”が問題なのか
かつては、歌舞伎町という「場所」に集まることが問題視されてきたが、現在は「若者の孤立」そのものが構造的な課題として残っている。
行政はトー横を巡回するパトロールに加え、支援につなげる「対話型アプローチ」やSNS上でのアウトリーチにも取り組み始めているが、若者側が「信頼できる大人」と出会えるかどうかは依然として運任せだ。
あるNPO職員は言う。
「行政や警察の対応も重要ですが、10代の子が『助けて』と言える環境を社会全体で整えないと、また別の“トー横”が生まれてしまう」
消えたわけではない、変化する「トー横」
2025年現在、“トー横”はかつてのように目立つ場所ではなくなった。しかし、それは問題の「解決」ではなく、「見えにくくなった変化」にすぎない。
表から消えた若者たちは、別の場所で、別の形で孤立している。
トー横という“境界地帯”が問いかけているのは、私たちが社会の中で「声なき声」にどう応えるか、その姿勢そのものである。(文・写真@編集部)