元サザン・大森隆志はなぜ茶畑まで行ったのか 「名前だけ貸すのは違う」川根茶プロジェクトに見えた〝本物〟への執念

タレントおざわまりなが川根茶アンバサダーに。左から川根本町産業振興課長北村浩二氏、大井川農業協同組合理事板谷隆輝氏、おざわまりな、大森隆志、フジギターズ株式会社代表取締役藤原靖弘氏

芸能人の名前が付いた商品は珍しくない。だが、その本人が生産地まで行き、畑に入り、自分で摘んだ〝原料〟をその場で食べるケースとなると、話は少し違ってくる。

9月1日、静岡県川根本町。
元サザンオールスターズのギタリスト、大森隆志の姿は茶畑にあった。
大森は「丹野園」で茶の芽を摘むと、そのまま口にした。
「苦くて、あとから甘くなる」
商品になった茶を試飲するだけではない。

その茶がどんな土地で育ち、誰が作り、摘みたての葉がどんな味なのか。そこまで自分で確かめる。背景には、大森なりの〝食への哲学〟がある。

宮崎県の老舗うなぎ会社の三男として育った大森は、食についても本物志向。著名人が商品に名前を貸しただけのコラボではなく、自ら味わって納得し、生産者の話を聞いた上で世に出したいという。そこから生まれたのが「楽茶シリーズ」の「大森茶」プロジェクトだった。

しかも生産者は筋金入りだ。
丹野園の丹野浩之氏は全国茶品評会や静岡県茶品評会で優勝し、農林水産大臣賞を2年連続を含む計3度受賞。2004年には皇室献上茶指定園も拝命している。大森が長年向き合ってきたギターの世界では、材、職人、音の違いが作品を左右する。茶も同じなのだろう。

土地が違う。作り手が違う。育て方が違う。だから本人が現場まで行く。

そんな大森が川根本町を訪れた同じ日、もう一つの物語も始まっていた。タレント・おざわまりなの「川根茶アンバサダー」就任だ。

おざわは楽器演奏を得意とし、日本語以外に5カ国語を話すという。さらに日本茶アドバイザーとしての知識を持ち、川根本町で暮らした経験もある。委嘱式で身につけたのは、地域活性化に熱心だった祖父のジャケットだった。大井川農業協同組合(JAおおいがわ)理事の板谷隆輝氏から委嘱状を受け取ったおざわは、喜びと決意を語るうちに涙を流した。そのとき、日本茶インストラクターでもある母親がハンカチを差し出した。

祖父のジャケットを着た孫。

その涙を拭う母。

単なる〝観光PR〟という言葉では片付けられない光景だった。この日には「楽茶」を展開するフジギターズ川根本町オフィスのキックオフパーティーも開催された。「大森茶」は10月17日、東京・御茶ノ水で開かれる「お茶の水熱烈楽器祭」で発売開始予定だ。

タレントが故郷の茶を世界へ伝える。

ロックミュージシャンが茶畑へ入り、生産者と向き合う。

そして、楽器の街・御茶ノ水で川根茶を売る。

普通の自治体PRなら、なかなか出てこない組み合わせだ。

だからこそ面白い。

川根本町で始まったのは、新しいお茶の商品だけではない。

音楽、家族、土地、そして作り手を一本につなぐ、新しい地域発信の形なのかもしれない。(写真・文Ⓒ野島茂朗)