4億2600万円の「世界の着物」はなぜ戻らないのか イマジンワンワールド高裁勝訴、その先にある返還問題

「KIMONOPROJECT」に一体何が

「世界はきっと、ひとつになれる」。そんな願いを掲げて制作された着物が、法人運営を巡る争いの中で、披露の機会を失っているという。
世界各国・地域と難民選手団をモチーフにした着物は213着。帯と合わせた制作費は、総額4億2600万円に上る。資金を寄せた人々、日本各地の職人、活動を支えたボランティア。その思いが詰まった着物の返還を、一般社団法人イマジンワンワールド(代表理事・手嶋信道氏)が求めている。

法人運営を巡る訴訟では、東京高裁が9月24日、元社員のX氏らの控訴をいずれも棄却した。法人側は、一連の司法判断で手嶋氏を代表理事とする体制が認められたとして、着物や帯の返還要求を強める構えだ。ただし、今回の判決は着物の引き渡しを命じたものではない。代表理事を巡る争いで得た司法判断を、返還と公開にどうつなげるか。そこが、今後の課題となる。

同法人の「KIMONO PROJECT」は、各国大使館への聞き取りを通じ、その国が大切にする自然、文化、歴史を着物のデザインに取り入れてきた。制作を担ったのは、日本各地の着物作家や職人たちだ。制作資金は全額寄付で賄い、全額を制作者に支払ったという。活動するメンバーも全員ボランティア。多くの人の協力によって形になった国際交流の取り組みだった。

ところが、法人内部では、代表理事の地位を巡る争いが続いてきた。
創設時の代表理事・高倉慶応氏の退任の背景には、不正取引問題があった。法人側によると、不法行為に当たるとする取引が問題となったことを背景に高倉氏が退任。その後、手嶋氏が代表理事に就任した。

高倉氏が経営する蝶屋株式会社は、福岡県久留米市で呉服専門店「きもの蝶屋」を運営。振袖や訪問着、帯、和装小物などを扱う会社だ。

法人側は、同社との取引で法人資金が不当に流出したとして、立替金の返還を求めて提訴した。法人の発表によると、東京高裁は令和7年6月26日、高倉氏が代表理事の立場を利用した違法な利益相反取引と判断し、蝶屋に332万2966円と遅延損害金の支払いを命じた。一方、X氏は、手嶋氏を代表理事から解任する決議などを経て自ら代表理事に就任したとして、法人側は、その手続きの適法性を争ってきた。

今回、X氏らが求めたのは、手嶋氏を理事に選任した社員総会決議の不存在確認だった。東京地裁は今年2月27日に請求を棄却。東京高裁も9月24日に控訴を棄却し、X氏らの訴えを退けた。
関連する仮処分事件でも、東京高裁は令和4年6月1日にX氏の職務を停止する判断を示している。令和5年1月11日には、手嶋氏の職務執行停止・職務代行者選任を求める事件でX氏の抗告を棄却した。法人側は、これらの司法判断により、手嶋氏を代表理事とする体制が認められたとしている。

では、着物と帯は現在、どうなっているのか。

法人側によると、法人所有の着物や帯などを蝶屋株式会社に預け、令和3年4月から返還を求めてきた。しかし、X氏を支援する同社から、現在も返還されていないという。法人側は、同社が正当な理由なく引き渡しを拒んでいると主張している。

今回の高裁判決の対象は、あくまで理事選任決議を巡る争いだ。着物や帯の引き渡しを命じる判決ではなく、返還が実現したわけでもない。法人側は、代表理事を巡る一連の司法判断を踏まえ、返還と公開に向けた対応を進める方針だ。

同プロジェクトの着物は、東京・パリ両五輪の関連イベント、ラグビーワールドカップ、G7、G20、TICAD7、国連75周年記念式典などで披露されてきたという。
それだけに、法人側は、返還されない着物を活用できず、各国のイベントなどで披露する機会が失われていると訴える。保管されたままの時間が長くなるほど、着物を通じた交流の機会も失われていく。

4億2600万円という金額は大きい。だが、この問題で問われているのは、制作費だけではない。寄付をした人、制作した職人、協力した大使館、活動を支えたボランティアの思いを、どう生かしていくのかということだ。

「世界はきっと、ひとつになれる」。その言葉を掲げた213着が、再び人々の前に姿を見せる日はいつになるのか。高裁での勝訴を受け、次に注目されるのは、返還と公開に向けた具体的な動きだ。(文・写真提供@霜月潤一郎)