「弁護人は何をやっているのか!」と裁判官も激怒 自立支援センターから捨てられた男の所持金は86円


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八木沢慎一(仮名、裁判当時54歳)は高血圧のために働いていたタクシー会社を退職せざるを得なくなりました。会社の寮に住んでいた彼は退職と同時に住居も失いました。

彼は当時住んでいた練馬区の生活サポートセンターに連絡し、福祉事務所で紹介された自立支援センターの寮に入所することになりました。

生活保護を受けながら寮で生活し高血圧の治療をしてまた働けるようになるまで体勢を整える、そんなつもりでいたのです。

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薬で高血圧は抑えることができ、少しずつ社会復帰に向けて軽いアルバイトなどもしていた彼でしたが、規約違反で寮を退寮させられてしまいます。

彼が破った規約は「寮では飲酒をしてはいけない」というものでした。彼はこれを「寮の中でお酒を飲んではいけない」と解釈しました。しかし規約は「一切お酒を呑んではいけない」というものでした。

アルバイトの帰り道、彼はお酒を買って呑んでから寮に帰りました。規約違反をしたのはこの一度だけでしたが寮から「一両日中に出ていって下さい」と言われてしまいました。寮を出てどこに行けばいいのか、そんな話は一切されませんでした。彼のこの時点での所持金は二万円程度でした。

転落していく人生

一度退寮させられた以上もう行政は頼れない、こう思い込んでしまいました。しかし行く場所はありません。手持ちのお金でいのぐしかありません。

こうしてホームレス生活がはじまりました。12月11日、季節は真冬でした。

12月20日、彼は路上で転倒し頭を打って病院に運ばれました。病院で治療を受けて入院することになり、退院したのは22日昼のことです。治療費を持っていない彼に対して病院は役所で手続きをするよう言いました。

22日は土曜日でした。役所はあいていません。23日は日曜日で、24日は祭日でした。25日まで役所はあきません。この時点で所持金は数百円になっていました。

この金額でどう25日まで過ごしたらいいか、病院がアドバイスしてくれることはありませんでした。

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23日深夜、彼は駅近くのカラオケ店に入店しました。
「寒さと空腹に耐えられなくて…無銭飲食で捕まったらそれはもう仕方ないと思っていました」
飲み物と食べ物を注文し、カラオケ店に二時間滞在してから他の客に紛れて店を出ようとしましたが、店員に見つかって彼は逮捕されました。カラオケ店の被害金額は5119円、逮捕時の彼の所持金は86円でした。

なぜ助けを求めなかったのか

役所でも病院でも、彼は自分の状況を説明し助けを求めたりはしませんでした。裁判でもほとんど黙っていました。

「なんでどこかのタイミングで誰かに相談しなかったの?」

裁判官も検察官も問いただしましたが、ただ黙っているばかりでした。たまに質問に答えても「よくわかりません」ばかりです。

被告人質問では、
「今後は緊急更正保護施設に入所するんですよね?」
と質問する弁護人に対して
「ああ…はい」
と返していました。しかし、弁護人は施設に入るための手続きを何も進めていないどころか関係機関への問い合わせすらしていませんでした。

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これは「情弱」と言われる人の現状の一つの例です。確かに彼は自分から助けを求めることもせず、何も行動は取りませんでした。

その点は彼の責任です。

しかし彼の生活に介入し犯罪に走る前に助ける機会は何度もありました。誰も彼を助けようとしなかった結果が無銭飲食という事件です。

彼は真冬に86円だけ持って深夜の街をさまよっていました。もしカラオケ店に入っていなければ…。命を落としていた可能性もゼロではありません。

「弁護人は一体何をやってたのか、とも思いますが…ちゃんと被告人の今後についてはっきりしないと判決はだせません」

裁判官はそういって、判決期日をかなり先の日に指定しました。

この事件での彼の「自己責任」は否定できません。ただ、それは彼が命を落とす瀬戸際まで追いつめられなければならないほどの「罪」だとは、とても思えません。(取材・文◎鈴木孔明)