日本人によるタイでの犯罪はなぜこんなに増えているのか? 異国で出会う同胞には十分な注意を!
日本人が多く集まるバンコク・タニヤ通り
先日、タイのバンコクである日本人が逮捕されました。以下、事件を報じた時事通信より引用します(名前は伏字)。
タイ警察は13日、知人の日本人男性を運び屋にして覚せい剤を日本に密輸しようとした疑いのある元暴力団員、О容疑者(57)=本籍東京都=を逮捕したと発表した。
О容疑者は日本に一時帰国するバンコク在住の男性にゴルフバッグの搬送を依頼。男性が調べたところ、ドライバーから白い粉が出てきた。
警察の調べでは、粉は覚せい剤で推定700グラム入っていた。警察は12日にバンコクの容疑者宅を捜索し、覚せい剤4.46グラム、大麻0.063グラムなどを押収。薬物の販売目的所持容疑で逮捕した。
男性は以前もО容疑者に頼まれ、日本に荷物を運んだことがあった。О容疑者はドライバーの覚せい剤については「知らない」と容疑を否認。自宅の薬物は友人から預かったと話している。
要するに、知人を「麻薬の運び屋」にして金を稼ごうとした悪党が逮捕されたという話。異国の地で日本人が日本人を嵌めるという、なんともやるせない事件です。残念ながら、タイではこうした事件が昔からしばしば起きています。
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逮捕されたОという人物は、バンコクの日本人闇社会ではちょっと知られた人物で、私も面識があります。十数年前、彼がバンコクの風俗系フリーペーパーの広告営業をしていた頃に知り合い、タイの裏話をいろいろと聞かせてもらいました。
当時の彼は、持ち前の人当たりの良さと口の上手さを生かして、精力的に仕事をこなしていました。ある晩、居酒屋でばったり会った際、「実はタイ人の彼女が妊娠しましてね」と嬉しそうに報告してくれたことを思い出します。
ただ、今回の報道でも明るみになったように、彼には「元暴力団員」という裏の顔がありました。表向きは堅気のように見えても、その実体は、遵法精神とは無縁のアウトローです。裏社会に人脈をもち、悪事をはたらき大金を稼ぐことを常に模索していました。そんな彼がドラッグ売買に手を染めたのは必然だったように思います。
かつて彼と付き合いのあったK氏は言います。
「17~18年前、Оさんは日本で何かやらかしてタイへ逃亡してきたようです。バンコクに来た当初は、売春バーで知り合った娼婦と同棲していました。まあ、ヒモですね。その後は居酒屋で働いたり、フリーペーパーで働いたりしていました。話題が豊富で、一緒に飲んでいて楽しい人でしたよ。でも、彼の周りにいる日本人やタイ人に怪しい人が多くて……だんだん距離を置くようになりました」
他にも、彼を知るW氏はこう言います。
「普段は冗談ばかり言う面白い人なんですが、金への執着が尋常じゃない。金の話になると本当に目の色が変わるんです。ドラッグ売買に手を出したのも、手っ取り早く稼ぎたかったからでしょう。タイ人の奥さんと子供がいるのに、こんな事件を起こして、家族が可哀想ですよ」
2人が言うように、О氏はとにかく話が上手く、相手の気を引くことに長けていました。私自身、裏社会を渡り歩いてきた彼の体験談に興味をそそられたものです。ある意味、人生経験が豊富だからこそなせる技なのだと思います。そんな彼に魅了され、信頼してしまう人がいても不思議ではありません。
報道によると、今回の事件では、日本に帰国する知人に「知り合いがゴルフバッグを忘れたから持って帰ってほしい」と頼み、ドライバーなどの入ったゴルフバッグを渡したとあります。彼のことだから、お得意の口八丁で相手を説き伏せたのでしょう。私にはその光景がありありと想像できます。
しかし今回は、これまでのように上手くはいきませんでした。自らも麻薬に溺れて判断能力が鈍っていたのか、狡猾で逃げ足の速い彼にしてはお粗末な結末でした。
タイでは麻薬密輸は重罪です。そのことを彼が知らないはずはありません。裁判になればおそらく死刑か終身刑が下されます。たとえ恩赦が下りたとしても、前例から判断すると、最低でも15~20年は監獄暮らしとなるでしょう。南国の刑務所がいかに過酷かも彼は知っていたはずです。
多くの日本人にとってタイは「南国の楽園」です。老若男女問わず、今後も移住者や旅行者は増え続けていくと思います。しかし残念ながら、その中には質の悪い日本人も相当数含まれています。
破門ヤクザ、半グレ、詐欺師、事件屋……食い詰めて海外シフトするのは企業だけではありません。巨大な日本人コミュニティのあるタイは、こうした連中にとっても絶好の稼ぎ場となっているのです。
この原稿を書いている今も、こんなニュースが流れてきました。
“タイに振り込め詐欺の拠点 邦人15人逮捕、日本に電話”(共同通信)
“詐欺容疑で国際手配の日本人 逃亡先のタイで逮捕”(テレビ朝日)
日本の悪党どもは、同胞をターゲットに虎視眈々と狙いを定めています。最近はブログやSNSで南国のハッピーライフを赤裸々に綴る若者も増えていますが、実に危なっかしいと思います。
異国にいる高揚感もあってか、日本人は、海外で知り合った同胞に対して警戒心のハードルを下げる傾向がありますが、タイでは時としてそれが命取りになります。
これからタイに行く人、タイに移住しようという人は、落とし穴は意外と身近にあるということを忘れないでください。(文◎鯖井マーク)