「むしゃくしゃしてやった」 犯罪を犯した者が語るこの動機の裏には一体どんな心の葛藤があったのか 社会に叩きのめされた放火魔裁判

こうなるともう次の転職先を見つけることなどできません。生活保護を受給するしか選択肢はありませんでした。

近くには母と弟が暮らしているそうですが、裁判では家族の支援を仰ぐ、といったような話はほぼ出てきませんでした。事情はわかりませんが、どこかの段階で疎遠になってしまっているようです。

生活保護を受けるようになってから彼の生活は乱れていきました。昼頃に起きてきてダラダラ過ごすだけの毎日。やることもやるべきことも何もありません。人と会って話すこともありません。生活を変えようとする気ももう起きません。

人のために良かれと思って尽くしていたのに彼は嘲られ暴力を振るわれました。その記憶は彼から立ち上がる意欲を奪いました。

そして酒を呑むようになりました。

彼の目には、この社会もそこで暮らす人間も自分のことを拒絶し傷つけようとする存在にしか見えなくなってしまっていたのかもしれません。しかし酒だけはどんな時でも彼を受け入れてくれます。拒絶されることも傷つけられることもなく、優しく全てを忘れさせてくれます。

酒量は日に日に増えていきました。

「保護費を貰うとすぐに全部酒で使ってしまうので、月2回に分けて貰うようになりました。それでもダメで、週に1回貰うようになりました」